Article Detail
NEC、性能のばらつきを抑えたCNTトランジスタを開発
高速・高信頼性を両立し、性能のばらつきを抑えたCNTトランジスタを開発
<プラスチック基板に印刷したCNTトランジスタ/印刷CNTトランジスタ(拡大写真)>
※画像は、添付の関連資料を参照
NECはこのたび、低価格で大面積な回路を製造できる「インクジェット印刷法によるカーボンナノチューブ(CNT)トランジスタ」において、高速駆動と信頼性の向上を両立しながら、トランジスタ個々の特性を安定した素子を開発しました。
印刷トランジスタの作成において、このたびのインクジェット印刷法は、従来のディスペンサ印刷法と比べて、より微細な回路を作成可能です。しかし、インクジェット印刷法に適した粘度などのインク特性の実現は困難でした。
このたび開発したCNTトランジスタは、インクジェット印刷法に最適なインクの組成と、高純度、高密度なCNTインクを開発し利用しています。これにより、従来比約10倍(注1)と高い移動度を実現し、素子の高速駆動が可能となりました。また、実用化に十分なオンオフ比(注2)を実現し、素子駆動における信頼性も確保しました。
さらに、CNTの基板上への密着性向上により、複数のトランジスタにおける特性のばらつきを従来比20%改善し、実用化に向けて大きく前進しました。
このたび開発したCNTトランジスタの特長は、以下の通りです。
1.インクにおけるCNTの高純度化、高濃度化により、高い移動度とオンオフ比を両立したCNTトランジスタを実現
半導体成分と金属成分が混在するCNTにおいて、トランジスタに必要な半導体成分のみを効率よく精製する技術を開発し、インクにおけるCNTを高純度化。また、インクに用いる添加剤を最適化し、CNTを高濃度化(〜20ppm)。高純度・高濃度なCNTインクを利用しインクジェット方式で線幅70μmの微細な回路を作成することで、CNT密度を増大し、従来比約10倍の移動度(5.1cm2/Vs)と、オンオフ比約10000のCNTトランジスタを開発。
2.添加剤除去手法の改善により、性能のばらつきを抑制
基板へのCNTインク塗布後の添加剤除去工程において、従来の純水洗浄をIPA(注3)蒸気洗浄に変更。これにより、従来課題だった添加剤除去時における基板からのCNT脱落を抑制し、密着性を向上。CNTは素子上に残しながら、添加剤の効果的な除去を実現することで、複数のCNTトランジスタにおける性能のばらつきを、従来の34%から13%に向上。
NECは今後、CNT密度を向上し、有機トランジスタの100倍の移動度を有する印刷トランジスタの開発に向けて研究開発を継続してまいります。将来は開発したトランジスタ利用して、高速スキャン対応フレキシブルセンサアレイや、大面積入出力デバイスへの応用を目指します。
NECはこのたびの成果を、本年11月30日から12月3日まで米国のボストンで開催される「MRS 2010 FALL MEETING」で発表します。
このたびの成果の一部は、東京大学、産業総合研究所ナノチューブ応用研究センターとの共同研究によるものです。
以上
(注1)
現状の一般的なインクジェット印刷法有機トランジスタ素子との比較。
(注2)オンオフ比
トランジスタ出力電流の最大値と最小値の割合。ディスプレイ用トランジスタの場合、オンオフ比が大きいほど輝度の明暗をつけやすい。
(注3)IPA(イソプロピルアルコール)
揮発性の高い有機溶媒。アルコールの一種。