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東大、120億光年のかなたに最遠方の超新星残骸を発見

2012-07-27

120億光年のかなたに最遠方の超新星残骸を発見



[発表者]

 濱野哲史(東京大学大学院理学系研究科天文学教育研究センター・大学院生)
 小林尚人(同上・准教授)
 茂山俊和(東京大学大学院理学系研究科ビッグバンセンター・准教授)


[発表のポイント]

 >どのような成果を出したのか
  観測史上最も遠方(約120億光年)の超新星の残骸(注1)を発見。宇宙の137億年の歴史上で、銀河や星がたくさん生まれたことで知られている最も重要な時代(約100億年以上前)に超新星が実在することを確認できたのは世界で初めてです。

 >新規性(何が新しいのか)
  重力レンズ(注2)という"天然のレンズ"を用いる斬新な手法で、従来の方法では暗くて決して観測できなかった遠方の超新星の残骸発見に成功しました。

 >社会的意義/将来の展望
  今後、同じ手法を活用して遠方宇宙の多数の超新星残骸を探査することにより、銀河が活発に作られた100億光年以上前の時代の宇宙史を明らかにできると期待されます。


[発表概要]

 東京大学、京都産業大学国立天文台東京理科大学の研究者からなるグループは、ハワイのすばる8.2m望遠鏡と高感度な近赤外線高分散分光装置IRCSを用いて、119億光年に存在する重力レンズクエーサー(注2)の像A,Bの赤外スペクトル(注3)を分離して取得することに世界で初めて成功しました。その結果、118.5億年先に存在するガス雲の吸収線(注3)を検出し、詳細な特徴からそれがIa型超新星の残骸(注1)であることを明らかにしました。これまで発見されている最遠のIa型超新星は約93億光年先のものでしたが、今回の発見はこの記録を大幅に更新するものです。重力レンズ効果によって約400倍に拡大された超新星残骸を、吸収線といういわば"影"によって見るという斬新な方法をとったことでこのような検出が初めて可能になりました。Ia型超新星は宇宙における元素合成、物質循環の基礎となる重要な現象で、本研究は約120億年前という宇宙が誕生して間もない時代においてすでにIa型超新星が起きていることを世界で初めて観測的に明らかにしたものであり、我々の周りに存在する多くの元素の起源を探る上で重要な成果です。


[発表内容]

 <背景>
  銀河系からはるか遠方に存在するクエーサー(注4)という天体を分光観測すると、そのスペクトル(注1)上に手前のガスによる多くの「吸収線(注1)」が観測され、その詳細な性質を間接的に知ることができます。いわばクエーサーを背景とした"影"を用いるこの手法は、遠方の宇宙に存在するガスを高感度で観測できる唯一の手段として近年注目されていますが、クエーサーと我々を結ぶ1視線上でしかガス雲を観測できないため、そのガス雲の肝心な情報(広がりや運動)が分からない、という大きな問題がありました。

 <本研究>
  東京大学を中心とする研究グループは重力レンズクエーサー(注2)による拡大効果に着目した吸収線の研究を進めています。重力レンズ効果(注2)によって吸収線で検出されるガス雲を何百倍にも拡大して調べることが可能になり、その大きさや性質を精密に調べることが可能になります。本研究ではその初期成果として、重力レンズクエーサーの中でも特に明るく強い重力レンズ効果で4つの像に分裂しているB1422+231という天体を観測し、最も近接したA、B像の赤外スペクトルを取得することに世界で初めて成功しました。その結果、スペクトル上に118.5億光年先に位置するガス雲に含まれるマグネシウムや鉄など重元素による吸収線を検出しました。この天体のA,C像の可視光スペクトルを取得したアメリカのグループによる先行研究(Rauch et al.1999)では、このガス雲は膨張運動していることが示唆されていました。本研究では従来困難であったB像の観測に成功したことで、さらにこのガス雲の大きさ・運動を明らかにすることができ、その結果超新星残骸(注3)であることが確認されました(次ページの図を参照)。本研究は最遠方の超新星残骸の発見であるとともに、宇宙論的スケールでの遠方のガス雲の正体を具体的に解明した世界で初めての例となります。

  また吸収線からこのガス雲には鉄が多く含まれていることも明らかになりました。まだ重元素の合成が十分に進んでいない約120億年前の時代に存在するにも関わらず鉄が多く含まれている事から、このガス雲は超新星残骸の中でも爆発時に鉄を多く放出することが知られているIa型と呼ばれる超新星爆発の超新星残骸であることが示唆されます。Ia型超新星はこれまで爆発の瞬間の放射光によって観測されてきましたが、最遠のもので約93億光年のものが確認されています。今回の「吸収線」によって検出された約120億光年先のIa型超新星の残骸はこの記録を大幅に更新するものです。これは、宇宙が始まってからまだ20億年程度しか経っていない時代においてすでにIa型超新星による重元素の合成が活発に進んでいることを示す重要な結果であり、宇宙における元素合成史の解明に示唆を与えることが期待されます。

 <今後>
  本研究はすばる望遠鏡の高空間分解能・高感度があって初めて可能になるもので、世界の他の大口径望遠鏡と比較しても優れた星像を誇る日本のすばる望遠鏡ならではの研究成果と言えます。今後、多くの重力レンズクエーサーの分光観測を進め、100億光年以上先の遠方宇宙におけるガス雲の物理状態や銀河形成史の解明を引き続き進めていく予定です。


[発表雑誌]

 発表雑誌
  雑誌名
    The Astrophysical Journal

  論文タイトル
    Type−Ia Supernova Remnant Shell at z=3.5 in the Three Sight Lines Toward the Gravitationally−Lensed QSO B1422+231

  著者
    濱野哲史、小林尚人、茂山俊和(東京大学)、近藤荘平(京都産業大学)、辻本拓司(国立天文台総合研究大学院大学)、大越克也(東京理科大学

  DOI番号
    10.1088/0004−637X/754/2/88用語解説


注1:超新星残骸
 星の爆発(超新星)の跡に残される球殻状の高温ガス。周囲のガスを取り込みながら膨張していき、数百万年かけて冷えながら消失していく。星内部で合成された重元素を多く含むことから、星の爆発の連鎖により、宇宙全体にばら撒かれた重元素の供給源として知られている。

注2:重力レンズ効果・重力レンズクエーサー
 一般相対論によると、非常に大きな質量を持つ天体の周囲の時空は湾曲し光すらもまっすぐ飛べずに曲がってしまう。この効果は、大質量の物体があたかもレンズのように光を曲げてしまうために「重力レンズ効果」と呼ばれる。重い天体の背景にある天体からの光は重力レンズ効果によって曲げられるため、集光されて実際より明るく見えたり、大きく見えたり、天体の像が歪んで見えたりする。重力が非常に強い時には光が大きく曲げられて、複数に分裂して見える事がある。この重力レンズ効果を受け、複数の像に分裂して見えるクエーサー(注4)のことを「重力レンズクエーサー」と呼び、現在までに約100天体ほど見つかっている。

注3:スペクトル・吸収線
 光(電磁波)の波長ごとの強度分布を「スペクトル」という。例えば、雨あがりの虹も波長ごとに太陽光が分解された一種のスペクトルと呼べる。天体の光がガスの中を通ると、ガス中に含まれる原子やイオンの量子力学的効果によってある特定の波長の光が吸収され、天体のスペクトル上に凹みが現れる。この凹みを「吸収線」と呼び、吸収線の大きさや現れる波長によってガス中に含まれる特定の元素の量や、運動を調べることが可能になる。

注4:クエーサー
 銀河系全体の1000倍程度という非常に高い光度で、かつ可視光、赤外線、電波など幅広い波長帯の光を放射する天体。現在では銀河中心に存在する大質量ブラックホールを取り巻くガスの円盤によって光を放射している活動銀河核と呼ばれる天体の一種とされている。


■図:重力レンズクエーサーで検出された超新星残骸の概念図。

 119億光年先にあるクエーサーから放たれた光(黄線)が手前に位置するレンズ銀河の重力によって曲げられて地球に複数の方向から届く。本研究のターゲットであるクエーサー(B1422+231)は、観測者からみるとA, B, C, Dの4つの像に分裂しているように見える。これら4つの光線は118.5億光年先にあるガス雲の中を通り、その中に含まれる様々な元素によって吸収される。本研究ではこの4つのうちA,Bの光を観測し、それぞれのスペクトルに紫と白の丸で示したガス雲に入射するところとガス雲から出るところに対応する2本の吸収線を検出した。この吸収線の特徴からこのガス雲が水色の矢印で示したような膨張運動していることがわかり、超新星残骸であることが明らかになった。

 ※図は添付の関連資料を参照


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