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京大、霊長類の脳神経回路から特定の経路を選り分ける「二重遺伝子導入法」を開発

2012-06-23

霊長類の脳神経回路から特定の経路を選り分ける「二重遺伝子導入法」を開発



 渡邉大 生命科学研究科教授、松井亮介 同助教らは、伊佐正 自然科学研究機構生理学研究所教授、木下正治 同特任助教、小林和人 福島県立医科大学教授、加藤成樹 同助教らと共同研究を行い、霊長類モデル動物の複雑な脳神経回路の中で特定の経路の神経情報を可逆的に遮断する技術の開発に成功しました。さらにこの技術により、ヒトをはじめとする霊長類特有の手指の巧みな動きを制御する脳の仕組みの一端が明らかになりました。

 本研究成果は英国科学誌「Nature」(6月17日号電子版)に掲載されました。


<概要>
 脳には非常に多種類の神経細胞が存在し、さらにこれらの神経細胞が互いに接続し複雑な回路を構築しています。脳の仕組みを理解するためには、個々の回路の機能を明らかにすることが大切であり、そのためには特定の神経回路を正確に遮断してその影響を調べる手法が非常に有効です。従来は、精密な遺伝子操作が可能なマウスなど限られた動物でのみこのようなアプローチが可能でした。本共同研究チームは、ヒトと進化的に近い脳をもつマカクサルの脳を解析するために、二つのウイルスベクター(図中:順行性ベクター、逆行性ベクター)による「二重遺伝子導入法」を開発し、マカクサルの脳の特定の神経回路を選択的かつ可逆的に遮断する技術を確立しました。

 さらに研究チームは、この技術を使って手指の制御に関わる神経回路の解析を行いました。手指を巧みに操ることができる私達ヒトを含め霊長類の運動系神経回路には、他の哺乳類にはみられない特徴があり、従来より論争がありました。すなわち、霊長類では脊髄レベルに進化的に新しい「直接経路」と旧い「間接経路」が混在し、そのうち「間接経路」が手指の巧緻運動制御に関わっているか、よく解っていませんでした。本手法を用いてマカクサルの「間接経路」を構成する脊髄固有ニューロン(図参照)の神経伝達を選択的に遮断したところ、手指の巧みな動きが損なわれました。この結果から、私達ヒトでも「間接経路」が手指の精緻な動きに重要な役割を果たしていると考えられます。

 〔図:「二重遺伝子導入法」による選択的かつ可逆的な神経回路遮断〕

  ※添付の関連資料「添付資料」を参照

 2種類のウイルスベクター(順行性ベクター・逆行性ベクター)を用いることで、目的の神経回路(この場合は脊髄固有ニューロン)にのみ遺伝子発現ユニットが導入される。さらに動物個体にDoxという薬剤を飲ませたときのみ、遺伝子発現ユニットのスイッチが入り、シナプス伝達が阻害され神経情報が遮断される。


<社会的意義>
 1.高次脳機能解明の方法論に大きな突破口
   本技術により、ヒトと進化的に近い霊長類モデル動物を使って、特定の神経回路の機能を正確に調べることが可能になりました。霊長類にのみ見られる高度な脳機能の解明が期待できます。

 2.特定の神経回路を標的にした遺伝子治療法開発へ期待
   パーキンソン病統合失調症、うつ病、てんかん等の脳疾患の治療に使われる薬の多くは、脳の神経活動を変化させる作用により症状の改善を図ります。しかしながら、これらの薬の多くは、脳の広範囲に作用するために副作用が問題となり、期待する治療効果が得られない場合もあります。今回開発した二重遺伝子導入法は、特定の神経回路の神経活動を選択的かつ可逆的にコントロールする技術であり、この原理を応用することで副作用の少ない脳疾患の治療法の開発が期待できます。

 3.脊髄は単なる反射の経路という教科書的常識を覆す成果
   教科書の常識では、脊髄は脳からの電気信号を伝える通り道であり、せいぜい反射の経路としか考えられていませんでした。今回の研究により、霊長類特有の精緻な手指の運動制御における脊髄神経回路の重要性が明らかになりました。間接経路をうまく活用することで、脊髄損傷等における手指の機能回復を促進するリハビリテーション法や医療技術の開発が期待できます。


 文部科学省・脳科学研究戦略プログラム(課題C:拠点長 伊佐正 生理学研究所教授)に基づく自然科学研究機構 生理学研究所・京都大学・福島県立医科大学の共同研究による研究成果です。


<関連リンク>
 自然科学研究機構生理学研究所のリリース

 ・日本語版
  http://www.nips.ac.jp/contents/release/entry/2012/06/post-214.html

 ・英語版
  http://www.nips.ac.jp/eng/contents/release/entry/2012/06/post-214.html


<書誌情報>
 [DOI]http://dx.doi.org/10.1038/nature11206

 Kinoshita Masaharu, Matsui Ryosuke, Kato Shigeki, Hasegawa Taku, Kasahara Hironori, Isa Kaoru, Watakabe Akiya, Yamamori Tetsuo, Nishimura Yukio, Alstermark Bror, Watanabe Dai, Kobayashi Kazuto, Isa Tadashi.
 Genetic dissection of the circuit for hand dexterity in primates.
 Nature,2012/06/17/online
 doi:10.1038/nature11206

 英国科学誌「Nature」6月17日電子版



・京都新聞(6月18日 20面)および日本経済新聞(6月18日 34面)に掲載されました。


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