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JSTと東京薬科大など、微生物が互いに電子をやり取りする未知の「電気共生」を発見

2012-06-11

微生物が互いに電子をやり取りする未知の「電気共生」を発見


<ポイント>
 ・微生物は金属微粒子を「電線」にして電子を流し、お互いに助け合っている
 ・導電性酸化鉄の添加で共生的代謝(酸化還元)が10倍以上促進することを発見
 ・微生物燃料電池やバイオガスプロセスの高効率化に期待


 JST 課題達成型基礎研究の一環として、JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「橋本光エネルギー変換システムプロジェクト」(研究総括:橋本 和仁)の加藤 創一郎 研究員(現 産業技術総合研究所 研究員)と渡邉 一哉 グループリーダー(現 東京薬科大学 教授)は、微生物が導電性金属粒子を通して細胞間に電気を流し、共生的エネルギー代謝を行うことを発見しました。
 本プロジェクトでは、クリーンエネルギー分野において期待される微生物燃料電池(注1)の研究開発を行ってきました。微生物燃料電池バイオマスから電気エネルギーを生産するプロセスとして、また省エネ型廃水処理プロセスとして有望であり、世界中で活発に研究開発が進められています。しかし、微生物がなぜ人工的な電極に電子を流す能力を持っているかについては不明でした。
 本研究では、環境中にも電極や電線が存在し、微生物が電子のやり取りをしているのではないかと考え、2種の土壌微生物(ゲオバクターとチオバチルス)が共生しているところに、環境中に普遍的に存在する導電性酸化鉄(注2)(マグネタイト)粒子を添加したところ、従来の共生的代謝に比べて代謝速度が10倍以上に上昇することを発見しました。このことは、導電性酸化鉄中を電子が流れ、2種の微生物の代謝が促進されたことを意味しています。
 環境中には多様な微生物が生息し、それらの間にはさまざまな相互作用があると予想されています。しかし、パスツールにより開発された単離・純粋培養技術を基盤に発展してきた現代の微生物学において、微生物間の相互作用に関する知見は非常に限られています。本研究の成果は、環境中の微生物の未知の共生関係を解き明かすものとして、また微生物燃料電池やバイオガス生産(注3)を高効率化するための基盤として、幅広くインパクトを及ぼすものと考えられます。
 本研究は、東京大学 大学院工学系研究科 応用化学専攻 橋本研究室、および東京薬科大学 生命科学部 生命エネルギー工学研究室(渡邉教授)との共同で行われました。
 本研究成果は、米国科学雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」のオンライン速報版で2012年6月4日の週(米国東部時間)に公開されます。

 本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。

 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究
  研究プロジェクト:「橋本光エネルギー交換システムプロジェクト」
  研究総括:橋本 和仁(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
  研究期間:平成18〜23年度

 JSTはこのプロジェクトで、光エネルギーを主としたエネルギー変換材料について、利用目的に合わせて物質のナノ構造を最適化するための設計・作成をする手法を研究し、新しいエネルギー変換材料・システムの開発を目指します。


<研究の背景と経緯>
 微生物燃料電池は、酸素の代わりに電極(アノード)を使って呼吸する微生物を用い、有機物を燃料として電気エネルギーを作り出す装置です。微生物の多様な代謝能力を利用できるので、さまざまな有機物を燃料として利用できます。また、微生物群集を用いることにより、組成が複雑な廃棄物系バイオマスや廃水中の汚濁物質を燃料にすることもできます。多大な電力が消費される現行の廃水処理に代わる省エネ型廃水処理として、大きな期待が寄せられています。
 微生物燃料電池の中で微生物は、有機物を酸化分解し、発生する電子を電極(アノード)に排出することによりエネルギーを獲得します。このような微生物は電極に電子を流すための細胞外電子伝達系を持っており、それらはグラファイトでできた電極の存在下で高発現します。しかし、微生物がなぜ、人工構造物の電極に電子を流すためのシステムである細胞外電子伝達系を持っているかについては、不明でした。


<研究の内容>
 本研究グループは、自然環境中にも電極や電線が存在し、それらを使って微生物が電子の授受をしている可能性を考えました。この考えを実証するため、酢酸を電子供与体に、硝酸を電子受容体として、土壌細菌の代表株であるゲオバクター(Geobacter sulfurreducens)とチオバチルス(Thiobacillus denitrificans)を共培養しました(図1)。ゲオバクターは酢酸を酸化分解できますが、硝酸を電子受容体にした呼吸はできません。一方のチオバチルスは、ゲオバクターと逆に、硝酸を電子受容体にできますが、酢酸を分解できません。つまり、両者の間に共生的電子の移動が起こらない限り、酢酸酸化に依存した硝酸還元は起こらないのです。このような培養系に非導電性の酸化鉄粒子を添加したところ、一部の鉄が溶液中に溶け出して拡散依存の電子媒体として働き、酢酸酸化に伴う硝酸還元(共生的代謝)が起きるようになりました。一方、導電性酸化鉄であるマグネタイトの粒子を添加したところ、共生的代謝が格段(10倍以上)に促進されました(図2、図3)。この現象は、溶液中を拡散移動する電子伝達系によるものとは説明できず、マグネタイト粒子の中を電気が流れたことを示しています。この現象を「電気共生」と名付けました。
 マグネタイトなど導電性ミネラルの粒子は、環境中(土中や堆積物中)に普遍的に、しかも豊富に存在しています。今回の発見から、これら環境中でも微生物が導電性ミネラルを電線として使って電子をやり取りし、お互い助け合って生きているとしてもなんの不思議ではありません。一方、微生物燃料電池やバイオガス生産プロセス(メタン発酵槽)の中では水素などの代謝産物が電子媒体になると言われていますが、この電子の授受ステップが律速段階になっています。導電性ミネラル粒子を使えば、これらのバイオエネルギー生産プロセスを高効率化できるのではないかと考えています。


<今後の展開>
 今回の発見は、微生物がなぜ電極に電子を流す能力を持っているのかという科学的疑問に端を発するものでした。しかし得られた結果は、環境中の微生物の共生関係を説明するものとして、またバイオエネルギープロセスの高効率化の礎として、広くインパクトを及ぼすものでした。今後は、導電性ミネラルを利用する微生物に関する知見を深めるとともに、微生物燃料電池やバイオガス生産プロセスの高効率化に応用していきたいと考えています。


※参考図・用語解説は、添付の関連資料「参考資料」を参照


<論文名>
 “Microbial interspecies electron transfer via electric currents through conductive minerals”
 (導電性ミネラルを通して流れる電流を介した異種微生物間電子伝達)

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