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理化学研究所、抗体を作るB細胞の分化の始まりを分子レベルで解明

2012-06-08

抗体を作るB細胞の分化の始まりを分子レベルで解明
−Runx1(ランクス1)転写因子がEbf1遺伝子を活性化してB細胞の分化を促進−



◇ポイント◇
 ・マウスのB細胞前駆細胞でRunx1遺伝子を欠損すると脾臓のB細胞が消滅
 ・Runx1転写因子はB細胞初期分化に必須なEbf1遺伝子の発現を促す
 ・Runx1転写因子はEbf1遺伝子のエピジェネティック修飾に関与


 理化学研究所野依良治理事長)は、免疫反応に不可欠なB細胞(※1)が血液幹細胞から分化するとき、Runx1 (ランクス1)という転写因子(※2)が必須であることを発見し、「B細胞分化プログラム」の発動メカニズムを分子レベルで解明しました。これは免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長)免疫転写制御研究グループの谷内一郎グループディレクター、セオ・ウセオク(Seo Wooseok)訪問研究員(日本学術振興会 外国人特別研究員)らによる研究グループの成果です。

 ウイルスなどの病原体を体から取り除く免疫反応には、T細胞による細胞性免疫と、B細胞が産生する抗体による液性免疫があります。B細胞は、B細胞分化プログラムに基づいて、骨髄にある血液幹細胞から分化します。これまで、B細胞への分化過程は、細胞表面マーカー(※3)などを用いて調べられてきました。しかし、血液幹細胞からB細胞への分化が始まるとき、血液幹細胞がどのようにしてB細胞へ分化する運命を与えられ、正しい道筋をたどるのかはよく分かっていませんでした。

 研究グループは、骨髄にあるB細胞前駆細胞(※4)で、血液幹細胞の分化に重要であることが知られていたRunx1遺伝子を欠損したマウスを作製しました。このマウスを解析したところ、B細胞前駆細胞の数が減少し、脾臓(ひぞう)のようなリンパ組織では、B細胞が消滅していることを発見しました。さらに、転写因子として機能するRunx1は、B細胞分化プログラムの発動に必要なEbf1遺伝子発現を調節するDNA領域に直接結合し、Ebf1遺伝子のエピジェネティック修飾(※5)を変化させてEbf1遺伝子を活性化させることが分かりました。また、Runx1遺伝子の機能を欠損したB細胞前駆細胞で、人為的にEbf1遺伝子を過剰に発現させると、B細胞の分化が回復しました。これにより、Runx1転写因子はEbf1遺伝子を活性化して、B細胞分化プログラムを発動するために必須であることが分かりました。

 本研究成果は、米国の科学雑誌「The Journal of Experimental Medicine」(7月2日号)に掲載されるに先立ち、オンライン版(6月4日付け:日本時間6月4日)に掲載されます。


1.背景
 免疫系は、ウイルスなどの病原体やがん細胞といった異物を身体から排除し、ヒトの健康を維持する重要な高次生命機能で、大きく自然免疫系と獲得免疫系に分類されます。さらに獲得免疫系は、キラーT細胞という免疫細胞が直接異物を攻撃する細胞性免疫と、特定の異物(抗原)と結合して抗原を除去する分泌タンパク質(抗体)を中心とした液性免疫に分類できます。抗体を産生する免疫細胞はB細胞と呼ばれ、骨髄にある血液幹細胞から分化します。B細胞の分化過程で異常が起きると抗体を作ることができないため、免疫不全の状態に陥り感染症にかかりやすくなります。従って、B細胞の分化過程の解明は、医学・免疫学における重要な課題です。これまで、細胞表面マーカーなどを使って、B細胞の分化過程が調べられてきました。しかし、根源的な問題である「血液幹細胞がどのようにしてB細胞へ分化する運命を与えられ、正しい道筋をたどるのか」という点は、いまだよく分かっていません。
 ヒトの身体は総計約60兆個のさまざまな種類の体細胞で構成されており、それらは全てゲノムという共通の遺伝情報を持っています。つまり、血液幹細胞もB細胞も同じ遺伝情報を持っています。従って、B細胞の分化過程を解明するには、必要な遺伝情報を取捨選択してB細胞への分化を制御している「B細胞分化プログラム」を解明することが非常に重要です。
 これまでB細胞分化プログラムは、E2A、Ebf1、Pax5という3つの遺伝子が順番に活性化すると報告されてきました。一方、血液幹細胞の分化に必要であるRunx1という転写因子は、B細胞の分化にも重要であることは分かっていましたが、B細胞分化プログラムにおける具体的な役割は不明でした。
 研究グループは、Runx1などの遺伝子を欠損したマウスを作製して、Runx1転写因子の機能解明に挑みました。


2.研究手法および研究成果

(1)Runx1転写因子の機能欠損によりB細胞が消滅
 研究グループは、血液幹細胞からB細胞に分化し始めたB細胞前駆細胞で、Runx1遺伝子を欠損したマウスを作製しました。これらのマウスを解析したところ、Runx1遺伝子を欠損すると骨髄中のB細胞前駆細胞の数が10%以下に減少し、その結果、脾臓(ひぞう)などのリンパ組織ではB細胞が消滅することを見いだしました。また、Runx1転写因子が機能を発揮するには、Cbfβという転写因子と複合体を形成する必要があるとされていますが、このCbfβ遺伝子を欠損した場合にも、同様にB細胞の減少を確認しました(図1)。
 これらにより、B細胞前駆細胞におけるRunx1/Cbfβ転写因子の複合体は、B細胞分化プログラムの発動に必要であると分かりました。

(2)Runx1転写因子がEbf1遺伝子の発現に重要な役割を担う
 次に、Runx1遺伝子の欠損がB細胞前駆細胞に具体的にどのような影響を及ぼすか調べたところ、E2A、Ebf1、Pax5というB細胞の分化に関わる3つの遺伝子の発現が全て低下していました。そこで、Runx1転写因子がこれら3つの遺伝子と実際に結合するのかどうか、クロマチン免疫沈降法(※6)で調べました。その結果、Runx1は、E2AとPax5遺伝子には直接結合しませんが、Ebf1遺伝子内にある遺伝子発現を調節するDNA領域に結合することが分かりました。さらに、この領域のエピジェネティック修飾をクロマチン免疫沈降法で調べると、Runx1遺伝子を欠損したB細胞前駆細胞では、遺伝子を不活性化するエピジェネティック修飾が多く起きていることを発見しました。つまり、Runx1転写因子は、エピジェネティック修飾を変化させて、Ebf1遺伝子の発現を制御していました。

(3)Ebf1遺伝子の強制発現によりRunx1転写因子欠損の影響が回復
 さらに、Runx1遺伝子を欠損したB細胞前駆細胞を取り出し、人為的にEbf1遺伝子の発現を過剰に回復させて培養すると、B細胞の分化が回復、数が倍増しました(図2)。つまり、Runx1転写因子は、Ebf1遺伝子発現を誘導することで、B細胞分化プログラムを発動する機能を担うことが分かりました。


3.今後の期待
 これまで、E2A、Ebf1、Pax5という3つの遺伝子が順番に活性化する、というB細胞分化プログラムが提唱されてきました。今回、遺伝子操作したマウスを用いた実験で、Runx1とE2AがEbf1の活性化に必要であると分かりました(図3)。B細胞分化プログラムの発動メカニズムの一端が明らかになり、今後、B細胞分化を制御する薬剤の開発に貢献すると期待できます。


原論文情報
 Wooseok Seo , Tomokatsu Ikawa , Hiroshi Kawamoto , and Ichiro Taniuchi, “Runx1−Cbf _ facilitates early B lymphocyte development by regulating expression of Ebf1”. The Journal of Experimental Medicine, 2012, DOI: 10.1084/jem.20112745


※補足説明・図1〜3は、添付の関連資料「参考資料」を参照

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