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NEDO、医薬品候補探索を効率化する「IT創薬」の基盤技術を開発・実証

2012-05-24

「IT創薬」実用化へ
―従来に比べ100倍以上の効果―



 NEDOの創薬加速支援事業の一環として、医薬品候補化合物をコンピューターシミュレーションにより探索する「IT創薬」の研究開発を進めていた大阪大学蛋白質研究所の中村春木教授らの研究グループが、基盤技術の開発・実証に成功しました。
 今回開発したシミュレーション技術を用いて鎮痛・鎮静薬の候補化合物を探索したところ、従来のコンピューター手法で得られる化合物に比べて100倍以上高い効果を示す化合物を取得することができました。
 今回の成果は、様々な医薬品候補化合物の探索においても有効であり、「IT創薬」が実用段階に入ったことを示すものと言えます。


1.概要
 近年、製薬企業の研究開発費は増加の一途をたどっており、有望な医薬品候補化合物の発見につながる新たな技術開発が求められております。
 このため、NEDOは2008年より創薬加速支援事業を実施、我が国の強みである世界最高レベルのタンパク質構造解析技術、分子間相互作用解析技術、計算科学技術を組み合わせることで、「IT創薬」という新しいアプローチの有効性を実証し、研究開発費を抑えた効率的な医薬品候補化合物探索を可能にする基盤技術の開発を進めております。


2.研究成果
 従来のコンピューターシミュレーション技術では、十分な効果をもち医薬品となり得る化合物の取得は困難とされておりました。
 今回、中村教授らは独自に開発を進めてきたコンピューターシミュレーション用の基本ソフトウェアmyPrestoに改良を加えることにより、従来に比べて100倍以上高い効果を示す医薬品候補化合物の取得を可能にしました。
 細胞膜上には膜タンパク質と呼ばれる一連のタンパク質群が存在しており、これらは重要な創薬標的と言われております。myPrestoは、これら膜タンパク質の生体内における複雑な立体構造を精緻に予測できるため、膜タンパク質に特異的に結合する医薬品候補化合物をシミュレーションにより高精度に探索することが可能となりました。
 このシミュレーション技術は、膜タンパク質のひとつであるμオピオイド受容体を対象とした鎮痛・鎮静薬の候補化合物の取得により実証されました。μオピオイド受容体は、モルヒネ等の麻薬性鎮痛薬の作用点として知られており、生体内では、脳から神経伝達ペプチドと呼ばれるエンドモルフィンが分泌され、μオピオイド受容体に結合して鎮痛効果を示します。
 オピオイド受容体には、μ(ミュー)、δ(デルタ)、κ(カッパ)というサブタイプが存在しますが、モルヒネ等の既存の麻薬性鎮痛薬は、サブタイプ選択性が低いこと、神経伝達ペプチドとの作用機序の違い等に起因する麻薬依存性、便秘、呼吸抑制などの副作用を示します。したがって、副作用の少ない麻薬性鎮痛薬を開発するためには、エンドモルフィンと類似の作用をもつ化合物の取得が必要だと言われてきました。

 今回、下記の手順によりエンドモルフィン(EM−1)と同等の作用をもつ化合物の取得に成功しました。

 (1)EM−1は、細長く柔軟性に富む分子で多様な立体構造をとり得ますが、ペプチド分子のとり得る複雑な立体構造を調べ尽くす手法は確立されておりません。そこで、高効率の計算手法(マルチカノニカル分子動力学計算:McMD in myPresto/Cosgene)により網羅的な立体構造の探索を行った結果、適切なEM−1の立体構造を得ることができました。(下図左)

   ※以下の資料は添付の関連資料「研究成果(画像あり)」を参照
    ・McMD法により探索したEM−1の立体構造多型
    ・μオピオイド受容体のモデル構造

 (2)高速・高精度のタンパク質−化合物ドッキングソフトmyPresto/Sievgeneを用いて、μオピオイド受容体のタンパク質立体構造にエンドモルフィン(EM−1)をドッキングし、μオピオイド受容体−EM−1複合体モデルを作成しました。

 (3)2,000万個以上の低分子化合物の分子モデル構造をデータベース化し(myPresto/LigandBox)、これらの化合物から、EM−1に類似した化合物(化学構造は異なるが、生理活性が類似している化合物)を選び出しました。
   myPresto/MD−MVO法では、μオピオイド受容体−EM−1複合体モデルを基に、通常使われている化学構造式の類似性ではなく、μオピオイド受容体に結合したEM−1分子の体積と電荷を考慮することによって、EM−1分子とよく重なり、μオピオイド受容体のリガンド結合ポケットに収まる化合物を選び出すことができます。

 (4)この結果、IC50値として1μMより強い活性を示す複数の低分子化合物(下図の赤丸)を取得することに成功しました。これらの化合物は下図に示す通り、EM−1との化学構造の類似性が低いものでした。

   〔図〕

    ※添付の関連資料「研究成果(画像あり)」を参照


 なお、本研究で開発したソフトmyPrestoは、下記サイトより無償で公開されています。

 ・myPrestoManagement
  http://presto.protein.osaka-u.ac.jp/myPresto4/
 ・myPresto(Medicinally Yielding PRotein Engineering SimulaTOr)
  http://medals.jp/myPresto/index.html
 ・LigandBox − LIGANds Data Base Open and eXtensible
  http://ligandbox.protein.osaka-u.ac.jp/ligandbox/


 この研究成果は、2012年5月26日のバイオグリッド研究会2012(公益財団法人都市活力研究所)で、共同研究者の福西快文主任研究員(産総研)によって紹介される予定です。


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