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NIMSとJST、空気中の物質を感知して発光する有機/金属ハイブリッドポリマーを開発

2012-05-24

空気中の物質を鋭敏に感知して発光するフィルムを開発
〜微量物質の検出センサーや新たなディスプレイへの応用に期待〜



<概要>
1.独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:潮田 資勝、以下NIMS)と独立行政法人科学技術振興機構(理事長:中村 道治、以下JST)は、空気中の物質を感知して発光する特性を示す有機/金属ハイブリッドポリマー(1)を開発した。この成果は、先端的共通技術部門 高分子材料ユニット 電子機能材料グループの樋口 昌芳グループリーダー、佐藤 敬博士研究員の研究によって得られた。

2.熱や電気などの外部刺激を感じて光る材料は、視覚的なヒューマンインターフェース性に優れた発光センサーや表示素子としての利用が大いに期待され、実用化が始まっているものもある。
 例えば、電圧を加えると発光する材料は、有機EL(2)ディスプレイとして既に商品化されている。
 一方、物質の蒸気(Vapor)を感知して光る(Luminescence)物質は、ベイポルミネセンス(3)(Vapo−Luminescence)物質と呼ばれるが、報告例は少なく、また表示素子など実用を見据えた研究もされてこなかった。

3.今回の成果は、新たに開発した有機/金属ハイブリッドポリマーを用いて、酸性やアルカリ性の気体を検知できる発光性ポリマーフィルムを実現したものである。

4.開発したポリマーは、希土類金属イオンであるユウロピウムイオン(4)と有機分子が数珠(じゅず)つなぎになった有機/金属ハイブリッドポリマーであり、非晶質(アモルファス)なのでスピンコート(5)等によるフィルム化が容易で、またユウロピウムイオン錯体(6)に由来する赤色発光を示す。今回、このポリマーフィルムの発光が、酸性の蒸気に触れることで消え、その後アルカリ性の蒸気に触れることで、再び光りだすことを発見した。また、それらの蒸気を感じて表示と非表示を繰り返す文字の印字にも成功した。本発明により、空気中の物質を感知し、知らせてくれる発光センサーやそのディスプレイへの応用に向けた研究が、今後大きく進むと期待される。

5.本研究成果は、JST 戦略的創造研究推進事業CRESTの「プロセスインテグレーションによる機能発現ナノシステムの創製」領域(研究総括:曽根 純一)の研究課題「エレクトロクロミック型カラー電子ペーパー」(研究代表者:樋口 昌芳)の一環として得られたもので、5月21日付けの英国王立化学会の速報誌「Chemical Communications」に掲載される(注目論文として同誌の裏表紙(Inside Back Cover)でも紹介)。


<研究の背景>
 熱や電気など外部刺激によって光ったり光らなくなったりする物質は、化学の面白さを伝える教材として有効であるばかりでなく、学術的にも重要であり、また新たな産業を生み出す可能性がある。例えば、電圧を印加すると発光する材料(エレクロルミネセンス材料)を用いて、有機エレクトロルミネセンス(有機EL)ディスプレイや照明が開発されている。
 一方、蒸気(Vapor)などの気体を検知して光る(Luminescence)物質は、ベイポルミネセンス(Vapo−Luminescence)物質と呼ばれるが、その報告例は白金錯体等極めて限られており、またフィルム化など実用化を見据えた研究はされていなかった。しかし、空気中における危険物質の発生やその存在をリアルタイムでわかりやすく教えてくれるヒューマンインターフェース性に優れたセンサーディスプレイの必要性が、近年高まってきている。


<研究成果の内容>
 樋口グループリーダーらは、カルボキシル基(7)を導入したビス(ターピリジル)誘導体(8)とユウロピウムイオンを溶液中で混合することで、有機部位と金属イオンが交互に連結した有機/金属ハイブリッドポリマーを合成した(図1)。得られたポリマーは、ユウロピウムイオン錯体に基づく赤色発光を示した。このポリマーをフィルム化し、酸性である塩酸の蒸気にかざすと、この赤色発光が消えることを発見した。その後、アルカリ性のトリエチルアミンの蒸気にかざすと再び赤色発光が現れた(図2)。この発光と消光は繰り返し起こすことが可能であり、材料として高い耐久性を有していることを確認した。

 これまでのベイポルミネセンス物質は、蒸気を受けたときの発光強度の変化がわずかだったり、変化に時間がかかったり(数分から数十分)、蒸気を取り込むと劣化するなど、実用的には問題が多かった。一方、本ベイポルミネセンス材料は、〔1〕蒸気を感知して発光状態から消光状態へ(あるいは消光状態から発光状態へ)はっきりと大きく発光強度が変わる、〔2〕応答が速い(蒸気をかざして数秒で変わる)、〔3〕発光⇔消光を繰り返し行える、〔4〕フィルム化したり印字したりできる(このポリマーを溶かした溶液を朱肉のように用いることで、はんこを押すように任意の文字を印字することができる(図3))といった優れた特徴を有している。

 この有機/金属ハイブリッドポリマーにおけるベイポルミネセンス特性は、次のようなメカニズムで起きていると考えられる。酸性の蒸気にかざすことで、ユウロピウムイオンに配位していたカルボキシレート(9)の一部がプロトン(H+)化され、それによりユウロピウムの発光のエネルギー失活が起こる。このポリマーフィルムをアルカリ性の蒸気にかざすと、プロトンが中和されカルボキシレートから脱離し、カルボキシレートがユウロピウムイオンに再び配位するために、発光が現れる。


<波及効果と今後の展開>
 ベイポルミネセンスの報告例はこれまで少なく、また学術的研究が主であった。我々は、ベイポルミネセンス特性を生かして、今回、酸性やアルカリ性の気体といった、一般的で多様な物質を感知することのできるベイポルミネセンス材料の開発に成功した。今後は、本成果を応用することで、人体にとって危険な気体の発生やその存在を文字などで直接発光表示できるセンサーディスプレイの開発を目指す。


 ※以下の資料は添付の関連資料「参考資料」を参照
 ・図1 ユウロピウムイオンを含む有機/金属ハイブリッドポリマーの分子構造。
 ・図2 ユウロピウムイオンを含む有機/金属ハイブリッドポリマーフィルムにおける可逆なベイポルミネセンス変化。
 ・図3 (a)ユウロピウムイオンを含む有機/金属ハイブリッドポリマーの印字。(b)印字された文字のベイポルミネセンス表示。
 ・用語解説

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