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北海道大学など、有機超薄膜型の光電変換分子素子で光の利用効率を飛躍的に高める方法を開発

2010-11-26

ナノギャップ光アンテナにより高効率化した有機超薄膜による光電変換


概要

1.独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:潮田 資勝)国際ナノアーキテクトニクス拠点(拠点長:青野 正和)の魚崎 浩平コーディネーターと北海道大学 (総長:佐伯 浩)大学院理学研究院の池田 勝佳准教授は共同で、分子エレクトロニクスでの利用が期待される有機超薄膜型の光電変換分子素子において、光の利用効率を飛躍的に高める方法を開発した。

 本研究では、光吸収・電子伝達といった必要な機能をもつ部品を連結した分子から成る単分子超薄膜を、原子レベルで表面制御した平滑な金電極面と金ナノ粒子で挟み込むことによって、ナノギャップ型の光アンテナを導入することに成功した。その結果、光アンテナ1つあたりで光誘起電子移動反応が約50 倍の効率に高まることを実証した。

2.単分子超薄膜を利用した機能設計では、分子レベルでの精密な構造制御と機能発現部位の自在連結によって、高度な機能性を実現できる可能性を持っている。しかし、光感応性の有機超薄膜を設計する場合、単分子層での光吸収率を高めるのには限界があり、システム全体としての高効率化には問題がある。しかし、多層膜化して光吸収率を高めると、分子レベルでの精密な構造制御が困難となる。

3.ナノ構造を持つ金や銀などの金属構造体においては、その自由電子が光の電場と結合して集団運動する、プラズモン共鳴を示すことが知られている。光がプラズモンと結合することで金属構造体近傍に局在電場を形成するため、色素分子と入射光との相互作用効率が向上すると考えられている。
 しかし、この現象を利用して光アンテナを実現するには様々な問題があり、特に光機能性超薄膜へ適用するには、分子機能の発現に必要な原子レベルでの金属表面制御とプラズモン共鳴を示す金属ナノ構造体の構築を両立することが困難であった。

4.本研究では、電極表面に高配向な機能性分子超薄膜を形成した後に、金ナノ粒子を分子層上に吸着させることで、電極とナノ粒子間で挟んだナノギャップ構造を構築するという従来とは逆の工程を経ることで、界面構造制御とアンテナ特性制御の両立を達成した。つまり、分子層の機能を最大限に活用しつつ、光アンテナの特性も厳密に設計・制御出来るようになった。本手法は、光アンテナを後付け出来る手法のため、様々な電極表面に応用できると期待される。

5.本研究結果は化学系学術誌であるAngewandte Chemie に受理されている。なお、本研究は文部科学省科学研究費補助金特定領域研究「光−分子強結合反応場の創成」の一環として行われた。


研究の背景

 光エネルギーの利用において、太陽光に含まれる光の成分を如何に有効に利用するかが重要な問題である。つまり、光を吸収する色素と太陽光スペクトルを一致させて、効率的に光を吸収し、エネルギーに変換することが求められる。植物の光合成反応では、光捕集アンテナとして作用するタンパクで光エネルギーを集め、光反応中心へ効率的にエネルギーを送り込む仕組みが整えられている。この自然界の光合成反応をモデルとして、人工光合成の研究が進められている。しかし、このように複雑な構造を、分子の合成によって構築することは非常に困難である。

 金属ナノ構造が示すプラズモン共鳴は、光局在化を伴うために光と分子との相互作用効率を向上させるのに役立つと期待されている。ナノ構造の形状によって共鳴波長を可視〜近赤外領域で自在に変えることができるため、光アンテナとしての利用を目指した研究が盛んに行なわれている。光アンテナ効果を得るには、光機能性分子をナノ構造の表面に近接させる必要がある。したがって、これまでの研究では、金属ナノ構造の表面に有機分子層を構築する方法論が取られていた。しかし、このような金属ナノ構造においてその表面原子配列を精密に制御することは依然として不可能である。その結果として、光アンテナ効果と金属表面積の増加による吸着分子量変化の寄与を明確に区別することさえできないほど混沌とした状況が続いていた。

成果の内容
 本研究では、金属ナノ構造の表面に光機能性分子層を構築するのではなく、表面の原子配列を制御した金属の平坦面に分子層を構築し、後から金ナノ粒子で分子層を挟み込んで光アンテナ構造を構築することを提案した。この構造では、金ナノ粒子が数ナノメートル厚さの分子層を挟んで金属電極に近接した状態となる。このとき、ナノ粒子と基板間のプラズモンカップリングによって、ギャップモードプラズモンと呼ばれる非常に光局在度の高いプラズモンモードが生じる。ギャップモードプラズモンの共鳴特性は、ナノ粒子の直径とギャップ距離の比で決まるため、分子層厚さで精密にギャップ距離が制御された状況においては、ナノ粒子の粒径制御で精密に光アンテナの特性を制御出来ることになる。それによって、光電流の値が光アンテナの共鳴特性と一致する増強を示し、最大の増強度を示した波長670 nm において、光アンテナ1個につき50 倍の大きさになることを実験的に確認することに成功した。同様の手法は様々な光機能性有機分子超薄膜に応用できるものと期待される。

波及効果と今後の展開
 今回の研究は、純粋にプラズモン共鳴の効果だけで光機能性分子膜における光利用効率が向上することを明確に示した初めての例である。また、分子デバイスにおける界面構造制御の重要さを示したことは、今後の分子超薄膜デバイスの開発に重要な知見である。本研究で用いた光アンテナ構造は、プラズモン共鳴特性を制御することが容易な上、様々な分子修飾電極への適用も可能であることから、非常に応用範囲の広いアンテナ構造といえる。今後様々な機能性分子膜との複合化を図り、光で駆動する分子超薄膜デバイスの実現を目指す。


※ 図・用語解説は、関連資料参照


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