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広島大と東大、高温超伝導体で電子と格子振動が強く結合する仕組みを解明

2010-11-26

高温超伝導体で電子と格子振動が強く結合する仕組みを解明
〜より高温での超伝導実現に大きな手がかり〜


【概 要】
 広島大学大学院理学研究科の井野明洋助教と、大学院生の安斎太陽、東京大学大学院理学系研究科の藤森淳教授、内田慎一教授らを中心とする研究グループは、広島大学放射光科学研究センターの高輝度シンクロトロン放射光を用いて、世界最高水準の高分解能・角度分解光電子分光実験を行い、高温超伝導体で電子と格子振動が強く結合する仕組みを明らかにしました。高温超伝導発現には、電子と電子をつなぐ強力な「のり」の存在が必要とされています。しかし、これまで、その「のり」の正体が不明でした。今回判明した仕組みによる強い電子格子結合は、強力な「のり」の有力な候補です。本成果は、より高温での超伝導を達成するための大きな手がかりとして、グリーン・イノベーションの突破口を担うことが期待されます。


【本研究のポイント】
1.結晶格子の振動が、電子と強く結合する仕組みを解明しました。
2.本研究成果は、高温超伝導の発現を説明する有力なメカニズムとなります。
3.本研究成果は、より高い温度での超伝導実現に大きな指針を与えます。超伝導転移温度の上昇は、無損失電力輸送や超伝導電力貯蔵、超伝導量子コンピュータなどのグリーン・イノベーション推進の原動力となります。


【背 景】
 超伝導は、電気抵抗が完全にゼロになるという目覚ましい性質を示す現象です。超伝導は、無損失電力輸送、超伝導電力貯蔵、高速低消費電力超伝導コンピュータなどの画期的な応用が見込まれており、省エネ・環境分野におけるグリーン・イノベーション推進を担う根幹技術と位置づけられています。しかし、超伝導技術普及の最大の障害が温度です。超伝導は、低温でのみ発現するため、液体ヘリウムなどを用いた高コストな冷却設備を必要とします。1986年のベドノルツとミューラーによる銅酸化物超伝導体の発見を端緒として、液体窒素温度(−195.8℃)を超える転移温度をもつ超伝導体が続々と発見されました。より高温での超伝導を達成するためには、まず、高温超伝導発現のメカニズムを理解する必要があります。この24年間、実に多くの研究がなされてきました。これまでに、高温超伝導発現には電子と電子をつなぐ強力な「のり」が必要だということが判明しましたが、その「のり」の正体が依然として不明のままでした。これを特定するために、電子と結合する振動の周波数分布を決定する精密な実験が求められていました。


【研究手法と成果】
 研究グループは、広島大学放射光科学研究センターにおいて、高輝度のシンクロトロン放射光※と世界最高レベルの高分解能・角度分解光電子分光装置を組み合わせて、ビスマス系銅酸化物高温超伝導体(Bi2Sr2CaCu2O8+δ,Bi2212)の中の電子の速度と寿命の精密観測に成功しました。さらに、電子の速度と寿命から、電子と結合する振動の周波数分布を決定する新しい手法を開発し、格子振動の低周波成分が電子と強く結合する仕組みを明らかにしました。ここで判明した強い結合の仕組みは、高温超伝導を担う電子をつなぐ「のり」の有力な候補になります。そして、より高い温度での超伝導実現に、大きな指針を与えるものと期待されます。


【波及効果】
 より高温での超伝導状態、より強い超伝導状態を実現するためには、電子をつなぐ「のり」をさらに強くする必要があります。その際、本研究成果は、大きな指針を与えるものと期待されます。超伝導転移温度の高温化は、冷却装置の簡素化による大幅なコスト削減をもたらし、無損失電力輸送、超伝導電力貯蔵、高速低消費電力超伝導コンピュータなどの超伝導技術の普及を推進します。本研究成果は、省エネ・環境分野におけるグリーン・イノベーション推進の突破口を担うものと期待されます。

 本研究課題は、放射光科学研究センターの共同研究委員会により採択された研究課題のもと実験が行われました。また本研究は科学研究費補助金の助成を受けて実施されました。また本成果は、米国の科学雑誌フィジカル・レビュー・レターズ『Physical Review Letters』に掲載予定です。
(原著論文)H.Anzai,A.Ino,T.Kamo,T.Fujita,M.Arita,H.Namatame,M.Taniguchi,A.Fujimori,Z.−X.Shen,M.Ishikado,and S.Uchida,to be published in Phys.Rev.Lett.


(※注)「シンクロトロン放射光」光の速度(地球を一秒間に7週半する速さ)までに電子を加速し、磁場でその進行方向を曲げると、同時に進行方向に強力な光が放出される。これがシンクロトロン放射光である。自然界では星雲の中に放射光を見つける事ができるが、地上では専用の加速器が必要である。シンクロトロン放射光は、人類が手に入れた最も強力な光で「夢の光」とも呼ばれる。


※参考資料は添付の関連資料を参照

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