イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

JSTなど3社、リアルタイムに裸眼で3D観察できる電子顕微鏡を開発

2012-05-08

リアルタイムに裸眼で3D観察できる電子顕微鏡の開発に成功
−ミクロの世界を実感する新時代の顕微鏡−



 JST研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発プログラムの一環として、株式会社日立ハイテクノロジーズの伊東 祐博 先端解析システム設計部長、株式会社ナナオの伊藤 広 映像商品開発部 開発マネージャー、新潟大学 大学院医歯学研究科の牛木辰男 教授、静岡大学 工学部の岩田 太 教授らは、リアルタイムで3D観察が可能な走査電子顕微鏡(SEM)(注1)と、裸眼に対応した高解像度の3Dモニターを開発しました。
 SEMでは、細く絞った電子線を観察対象に照射しながら2次元的に走査することで、表面の形状を立体的に観察することができます。そのため、観察物の立体構造を解析するツールとして、医学・生物学から無機材料分野まで、さまざまな分野で広く活用されています。試料をSEMで立体的に観察するためには、従来、右目で見たときと左目で見たときに相当する静止画像(視差画像(注2))を、試料台を傾けて異なる角度からそれぞれ取得してから合成し、赤青メガネなどをかけて観察する必要があります。しかしこの方法では、視差画像の取得や調整に時間がかかるため、リアルタイムに試料のSEM像を裸眼で3D観察することができませんでした。
 今回、開発チームは、試料に照射する電子線の角度を切り替えながら高速で走査する技術を開発し、瞬時に左右の視差画像を取得することに成功しました。また、裸眼に対応した高解像度の立体表示は、Directional Backlight(指向性光源)方式(注3)により実現しました。Directional Backlight方式は、視差画像を同じ画素から時間差で表示するため、従来技術に比べて奥行き方向の再現性に優れた3D観察が可能です。
 これらの成果によって、裸眼でリアルタイムに高解像度なSEM像の3D観察が可能となることから、観察物の構造解析だけでなく、マニピュレーターを用いた微小解剖、無機材料の電気特性の取得など、さまざまな分野への応用が期待できます。
 本開発成果は、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製SEMのオプション機能として、平成24年度に製品発売を予定しています。

 本開発成果は、以下の事業・開発課題によって得られました。
  事業名:研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発プログラム/プロトタイプ
       実証・実用化タイプ
  開発課題名:「リアルタイムステレオSEMの開発」
  チームリーダー:伊東 祐博(株式会社日立ハイテクノロジーズ 先端解析システム設計部 部長)
  開発期間:平成21〜23年度
  担当開発総括:尾形 仁士(三菱電機エンジニアリング株式会社 相談役)
 JSTはこのプログラムのプロトタイプ実証・実用化タイプで、プロトタイプ機の性能の実証並びに高度化・最適化、あるいは汎用化するための応用開発を行い、実用化可能な段階まで仕上げることを目的としています。


<開発の背景と経緯>
 走査電子顕微鏡(SEM)は、数〜数十ナノメートル(ナノは10億分の1)の分解能で試料の表面形状を観察できることから、医学生物学分野から無機材料分野までの広い分野で立体構造を解析する装置として活用されています。観察対象の表面の凹凸が詳しく分かれば、その立体構造を知るための重要な情報になります。しかし、一般のSEMで得られる画像(SEM画像)は、一方向から観察した画像であるため、片眼で見たとき(単眼視)のように平面的な画像になってしまいます。立体的なSEM画像を得るためには、観察物を搭載した試料ステージを傾斜して左右の視差画像を取得して合成し、赤青メガネなどを用いて観察する必要がありました。そのため、リアルタイムの3D観察はできませんでした。
 今回、株式会社日立ハイテクノロジーズの伊東チームリーダーと株式会社ナナオの伊藤開発マネージャー、新潟大学の牛木教授、静岡大学の岩田教授らは、リアルタイムに3D観察が可能なSEM(リアルタイムステレオSEM)と、裸眼に対応した高解像度の3Dモニターを開発しました。これにより、裸眼でリアルタイムに高解像度なSEM像の3D観察が可能となることから、観察物の構造解析だけでなく、マニピュレーターを用いた微小解剖、無機材料の電気特性の取得など、さまざまな分野への応用が期待できます。


<開発の内容>
 本開発では、「リアルタイムステレオSEM」と、「裸眼対応高解像度3Dモニター」の開発を行いました(図1)。
 リアルタイムステレオSEMは、電磁レンズの収束作用により電子線を傾斜させます。
 電磁レンズの収束作用による電子線傾斜では、電子線傾斜に伴って発生する収差により、分解能が低下する課題があります。そこで、分解能の低下を抑えるため、専用の電子光学系と電子線の走査制御技術を開発しており、今回これらの技術の一部を活用しています。
 また、電子線の傾斜方向の制御は、専用の電磁コイルを用いて1ライン単位、または1フレーム単位で左傾斜走査、標準走査、右傾斜走査のように切り替えながら試料上を走査します(以下、左傾斜走査時の画像を左視差画像、右傾斜走査時の画像を右視差画像、標準走査時の画像を通常SEM画像とよぶ)。これにより、走査速度は33ms/フレームの高速スキャンに対応し、リアルタイムの3D観察が可能となりました。特に左右の視差画像は、レンズの収束作用を利用しているため、通常SEM画像とフォーカスや非点収差(注4)が異なりますが、1ライン/1フレーム単位でのフォーカスや非点収差の調整に対応したことも本装置の特長です。
 取得した左右の視差画像は、今回開発した専用ソフトによりデータ処理することで、裸眼対応高解像度3Dモニターに対応したデュアルインプット方式(注5)の他、一般的な3Dモニターに対応したサイドバイサイド方式(注6)、アナグリフ方式(注7)の出力が可能となっています。
 また、3D観察専用のグラフィカル・ユーザー・インターフェイス(GUI)も開発しました(図2)。これにより、左右の視差画像と通常SEM画像、および左右の視差画像を合成したアナグリフ画像(図3)の4画面同時表示を可能にしました。これらの画像を同時表示することで、通常SEM画像と比較しながら左右の視差画像の焦点や非点収差の調整を可能にしたため、使い易くなっています。
 裸眼対応高解像度3Dモニター(DuraVision FDF2301−3D)は、Directional Backlight(指向性光源)方式により高精細表示を可能にします。卓上型の裸眼3D液晶モニターでは、大画面23.0型でフルHD(1920×1080ドット)の高精細表示が可能な世界初の製品で、2011年度に株式会社ナナオが販売を開始しています(図4)。一般的な裸眼に対応した3Dモニターの表示方式は、液晶パネルの画素を左右の視差画像に割り振るため、水平方向の解像度が半分になりますが、Directional Backlight方式は、左右の視差画像を同じ画素から時間差で表示することで、3D画像を映し出します。つまり、左右の視差画像ごとに液晶パネルの画素を割り振る必要がないため、液晶パネルの持つフルHDの高解像度をそのまま生かした、奥行き分解能に優れるリアルな3D画像を観察することができます。また、観察者の左右それぞれの目に届く視差画像の方向を、LEDを採用した液晶モニターの光源で決定しているため、他の裸眼3D方式で問題となる、バリアやレンズによるモワレや縞目の発生がありません。また原理上、左右の視差画像が入れ替わって見える「逆視」となる視位置がなく、画面周辺部まで高精細な3D画像を安定して観察できます。


<今後の展開>
 今回、リアルタイムに裸眼で、SEM像の高解像度3D観察が可能になりました。これは、従来のSEMの3D映像静止画像の世界とは大きく異なり、ミクロの世界をリアルに体感できる新時代の顕微鏡として期待できるものです。本成果により、マニピュレーターを用いたSEM視野内での微小解剖(医学生物分野)や電気特性の取得(無機材料分野)などへの応用が期待できることから、今後のSEMの新たな発展も示唆されます。
 今回開発した電子線傾斜技術の一部は、株式会社日立ハイテクノロジーズ製SEMのオプション機能として、本年度(平成24年度)に製品発売を予定しています。



※以下の資料は添付の関連資料「参考図/用語解説」を参照
 <参考図>
  図1 リアルタイムステレオ表示と裸眼対応高解像度3Dモニターの組合せ外観
  図2 画面表示例とステレオ観察用GUI
  図3 金属断面のアナグリフ画像
  図4 裸眼対応高解像度3Dモニター(DuraVision FDF2301−3D)の外観

 <用語解説>


Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版