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理化学研究所、小型霊長類の脳発生に重要な26個の遺伝子の発現様式を解明

2012-04-17

脳内遺伝子の発現様式解明に小型のサル「コモンマーモセット」が活躍
−霊長類が高次機能を獲得したメカニズムの解明へ−



<本研究成果のポイント>
 ○小型霊長類の脳発生に重要な遺伝子(26個)の詳細な発現様式の同定に1年半で成功
 ○同じ脳内の遺伝子でもげっ歯類と霊長類とではの発現場所が違うことを発見
 ○高次脳機能障害の治療法や精神疾患の発症メカニズム解明、治療法開発の足がかり


 理化学研究所野依良治理事長)は、小型の霊長類「コモンマーモセット(※1)」を用いて、新生児の広範な脳領域において26個の遺伝子の発現様式を明らかにしました。
 これは理研脳科学総合研究センター(利根川進センター長)、視床発生研究チームの下郡智美チームリーダー、益子宏美テクニカルスタッフと、理研―慶大連携研究チームの岡野栄之チームリーダーらによる研究グループの成果です。
 霊長類の脳が発生期にどのように形成され機能するのかを探ることは、ヒトの高次脳機能を理解するうえで重要です。これまで、脳発生メカニズムを解明するためのモデル動物として、遺伝子操作が容易であること、成長速度が非常に早いこと、小型であり経済的であることなどから、最も多く使われているのはげっ歯類のマウスです。しかし、系統発生的にげっ歯類と霊長類は離れており、生理学的、解剖学的、組織学的にも違いがあるため、全ての研究結果を直接ヒトに当てはめることが困難でした。また、機能解析には多数の遺伝子の発現を同時に調べることが不可欠ですが、ヒトに近いとされ、高次脳機能研究に多用されているマカクザルなどの大型のサルでは、複数の遺伝子の発現を脳の広範囲にわたって調べることは、経済的、時間的、人的な制約があります。
 研究グループは、大型のサルと比較して小型で繁殖効率が高く、成長速度の早い「コモンマーモセット」に着目し、これがヒトのモデル動物として適しているのかどうかを検討しました。まず、マウスで脳発生に重要とされ、詳細な発現様式が知られている26個の遺伝子を選びました。そして、それらに相当する26個の遺伝子をマーモセットで単離し、その発現様式をin situハイブリダイゼーション法(in situ hybridization法)(※2)という染色法で調べました。その結果、約1年半という短期間で遺伝子発現様式を広範な脳領域において同定するとともに、マウスと異なる発現様式を示す遺伝子も確認しました。この成果は同じ遺伝子でもコモンマーモセットにおいてはマウスとは発現様式が異なることを示しており、霊長類モデルを用いる重要性を示唆しています。
 今回、小型の霊長類であるコモンマーモセットを用いることで、短期間で多数の脳内遺伝子の発現様式の同定が可能であることが分かり、コモンマーモセットが霊長類の中でモデル動物として有用であることを示しました。今後、コモンマーモセットと大型のサルの両方を組み合わせて効率的な実験を行うことで、ヒトの脳発生や精神疾患発症のメカニズムの解明、高次機能障害の治療法などの確立につながると期待できます。
 本研究成果は、米国の科学雑誌『Journal of Neuroscience』(4月11日号)に掲載されます。なお、本研究は、文部科学省脳科学研究戦略推進プログラムの一環として、またFIRST、心を生み出す神経基盤の遺伝学的解析の戦略的展開などの助成を受けて行われました。


1.背景
 霊長類の脳がどのように形成され、機能しているのかを明らかにすることができると、ヒトの高次脳機能の理解や精神疾患の発症メカニズム解明、治療方法の開発などにつながります。そのためには、まず脳の「どこに」「いつ」「どのような」遺伝子が発現しているのかという発現様式の情報が必要です。これまで、脳発生メカニズムを解明するためのモデル動物として、最も多く使われてきたのはげっ歯類のマウスです。しかし、系統発生的にげっ歯類と霊長類は離れており、生理学的、解剖学的、組織学的にも違いがあるため、研究結果を直接ヒトに当てはめることが困難でした。
 また、ヒトに近いとされるマカクサルなどの大型のサルを用いた実験では、一度に多数の遺伝子の発現を脳の広い領域で調べることができず、複数の個体を比較するには、経済的、時間的、人的な制約があります。
 そこで研究グループは、従来用いられてきた大型のサルと比較して、小型で成長が早く繁殖効率の良い小型のサル「コモンマーモセット」に着目しました。このサルを用いて、脳の広範な領域における複数の遺伝子発現様式を調べ、これまでマウスで得られている知見と比較することで、ヒトのモデル動物として適しているのかどうか検討しました。


2.研究手法と成果
 まず、コモンマーモセットの脳内で発現する標識プローブ(※3)を作製するために、新生児のコモンマーモセットの脳の遺伝子ライブラリーを作製しました。次に、マウスの脳内でその詳細な発現様式が知られている26個の遺伝子に的を絞り、それらに相当するコモンマーモセットの26個の遺伝子を遺伝子ライブラリーから単離しました。そして、標識プローブを作製、in situハイブリダイゼーション法という染色法で遺伝子発現様式を調べました(図1)。その結果、約1年半という短期間で遺伝子発現を、大脳皮質や視床等のほぼ脳全体で確認することに成功しました。詳細な解析の一例として、多くの脳領域(大脳皮質領域、大脳皮質の層、海馬、視床など)において、ほ乳類の大脳皮質の基本的な構造の1つの層構造形成に重要な役割を持つSatb2遺伝子は、マウスと同じ発現様式を示すことを明らかにしました(図2中)。一方、神経軸索投射や神経回路形成をコントロールするEphA6遺伝子のように、マウスとは異なる発現様式を示す遺伝子も多数ありました(図2右)。これらの結果は、これまで培われてきたマウスによる脳発生や脳機能解析を含む研究の結果を、霊長類の高次脳機能を理解するときにどこまで使えるかを判断するうえで、重要な知見となります。


3.今後の期待
 今回、小型の霊長類であるコモンマーモセットを用いることで、短期間で多数の脳内遺伝子の発現様式の同定が可能であることが分かり、コモンマーモセットがヒトモデル動物として適していることを実証しました。
また、コモンマーモセットの脳内でマウスとは異なる発現様式を示した遺伝子の中には、ヒトで自閉症統合失調症の発症に関係している可能性があるといわれているものが含まれていました。今後、これらの遺伝子が脳のどこで、いつ発現し、どのような働きをするのかを明らかにできると、高次機能障害の治療法や精神疾患の発症メカニズムや治療法の確立につながると期待できます。


<原論文情報:>
 Hiromi Mashiko,Aya C Yoshida,Satomi S Kikuchi,Kimie Niimi,Eiki Takahashi,Jun Aruga,Hideyuki Okano and Tomomi Shimogori
 “Comparative anatomy of marmoset and mouse cortex from genomic expression”,Journal of Neuroscience.2012,doi:10.1523/JNEUROSCI.4788−11.2012.

 *以下の資料は添付の関連資料「補足説明/図1・2」を参照
 ・補足説明
 ・図1 新生児のコモンマーモセットの脳内でさまざまな発現を示す遺伝子
 ・図2 海馬における遺伝子発現様式の例

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