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農業環境技術研究所、重要害虫フジコナカイガラムシの性フェロモンの化学構造を決定

2012-04-05

重要害虫フジコナカイガラムシの性フェロモンの化学構造を決定
−日本初のコナカイガラムシ類に対する発生予察用誘引剤の市販へ−


[ポイント]
 ・果樹や野菜の重要害虫であるフジコナカイガラムシのオス成虫を強力に誘引する性フェロモンの化学構造を決定しました。
 ・フジコナカイガラムシなどのコナカイガラムシ類は殺虫剤の効果が高い時期が1〜2齢幼虫期に限られることから、防除が難しい害虫として知られています。
 ・この性フェロモンを誘引源とするトラップを用いることで、害虫の発生状況をより効率的に把握し、適期に防除することができます。


<概要>

1. 独立行政法人農業環境技術研究所は、福岡県農業総合試験場および島根県農業技術センターとの共同研究により、重要害虫フジコナカイガラムシのメス成虫からオス成虫を強力に誘引する性フェロモン成分を単離し、化学構造を決定しました。

2. フジコナカイガラムシを含むコナカイガラムシ類は、樹皮のすき間などに隠れる習性がある上に、成熟すると厚いワックスに覆われるため、殺虫剤による防除が難しい害虫です。殺虫剤を効率的・効果的に使用するためには、若齢期(1〜2齢幼虫)を狙って散布する必要があります。

3. 本物質を誘引源とした性フェロモン・トラップを用いることで、この害虫の発生状況を正確かつ簡単に把握・予測することができ、殺虫剤による防除をより効果的・効率的に行えます。

4. 平成24年3月からこの物質を利用した誘引剤が市販されました。これは日本で初めてのコナカイガラムシ類を対象とした発生予察用誘引剤です。


 予算:(独)農業環境技術研究所運営費交付金(2011)
 特許:フジコナカイガラムシの性誘引剤.特許第4734553号


<研究の社会的背景と研究の経緯>
 フジコナカイガラムシを含むコナカイガラムシ類は、果樹や野菜等の農作物に大きな被害を与える重要な害虫のグループです。コナカイガラムシ類は、樹皮のすき間などに生息する上に、成熟すると厚いワックスに覆われるため、殺虫剤が効きにくい難防除害虫として知られています。特に近年、殺虫剤の多用が周辺の天敵類に悪影響を与えていると考えられ、各地で被害が急増しています。そのため、コナカイガラムシ類の適切な防除体系の確立が求められています。

 コナカイガラムシ類の場合、殺虫剤に対する感受性が高い若齢幼虫期を狙って殺虫剤を散布することで、効果的・効率的な防除が期待できます。しかし、フジコナカイガラムシがいつごろ産卵・ふ化するのか、これまでは詳しく分かっていませんでした。そこで、野外での害虫発生調査に役立つ性フェロモン・トラップの開発に取り組みました。


<研究の内容>
 性フェロモンは、一般にメス成虫がオス成虫を呼び寄せ、交尾するために放出する匂い物質です。特定の種のオス成虫だけを強力に誘引することができるので、この物質を誘引源としたトラップ(性フェロモン・トラップ)を使用すれば、対象害虫の発生状況を容易に把握することができます。

 研究グループは大量のフジコナカイガラムシをガラス容器内で飼育し、メス成虫(図1)から放出される性フェロモンを含むすべての匂い物質をポンプで吸引・捕集しました。最終的に約180万頭分の匂い物質を濃縮し、液体クロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィーで分離しました。その結果、オス成虫(図2)に対する誘引活性を持つ成分(性フェロモン成分)を単離することに成功しました。質量分析計(MS)および核磁気共鳴装置(NMR)を用いた分析により、この成分の化学構造を2−イソプロピリデン−5−メチル−4−ヘキセニルブチレートと決定しました(図3)。この物質は、わずか0.001mgで一日あたり数十頭ものオス成虫を野外で誘引・捕獲できる活性を持つことが確認されました。


<今後の予定・期待>
 この成果を利用した発生予察用誘引剤が、平成24年3月から富士フレーバー株式会社より販売されました(エコモン事業部企画営業:電話 042−555−5186、ホームページ http://www.fjf.co.jp/jp/ecomon/index.html)。これを利用すると、フジコナカイガラムシのオス成虫の発生状況を簡単に調査できるようになり、その後の幼虫の発生する時期や量を高い精度で予測すること(発生予察)が可能となります。

 従来よりも少ない殺虫剤で効果的にコナカイガラムシ類を防除でき、環境への悪影響が小さい農業体系の確立に貢献するものと期待されます。


<用語の解説>

 性フェロモン:フェロモンとは、「生物個体が生産・分泌し、同じ種類の別個体に特定の行動や生理的応答を引き起こす化学物質」と定義されます。このうち配偶活動に関与し、メスとオスの間で作用するものを性フェロモンと呼びます。

 発生予察用誘引剤:発生予察とは、現時点での害虫の発生状況を把握して、今後の発生時期や量を予測することです。フジコナカイガラムシの場合、新成虫の発生から24℃で約22日後に卵がふ化することが知られています(図4)。発生予察用誘引剤を備えた性フェロモン・トラップを利用すれば、オス成虫の発生状況を簡単にモニタリングすることができるので、1齢幼虫発生時期の目安を予測できます。そのため、効率のよいタイミングで殺虫剤を散布することができます。

 質量分析計(MS):試料をイオン化し、物質の分子量を測定する装置です。また、分子を構成する元素の組成も知ることができます。

 核磁気共鳴装置(NMR):強力な磁場に置かれた原子核と電磁波の相互作用を測定する装置です。分子中の原子のつながりを把握し、分子構造を解析することができます。


※図1〜4は、添付の関連資料を参照

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