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JSTと慶大、自己免疫疾患の原因となる免疫細胞が増える新たな免疫調節の仕組みを発見

2012-04-05

自己免疫疾患の原因となる免疫細胞が増える新たな仕組みを発見
−副作用の少ない治療法の開発に期待−



 JST 課題達成型基礎研究の一環として、慶應義塾大学 医学部の永井 重徳 助教らは、自己免疫疾患の原因となる免疫細胞が増える、新たな免疫調節の仕組みを発見しました。
 関節リウマチ、炎症性腸疾患(注1)などの自己免疫疾患は、免疫システムが自分自身の正常な細胞や組織に対してまで攻撃してしまうため発症しますが、その原因として免疫システムで司令塔の役割をするヘルパーT細胞(T細胞の一種である細胞、以下、Th細胞)の細胞のなかでも、近年発見された「Th17細胞(注2)」が大きく関与していると考えられています。
 そのため、自己免疫疾患の治療標的として世界中で盛んに研究されていますが、Th17細胞がどのように増えるのか、その仕組みは十分には明らかになっていません。
 本研究グループは今回、脂質リン酸化酵素の一種である「PI3K(注3)」がTh17細胞を増やす仕組みを明らかにし、さらにその仕組みを阻害する薬剤を自己免疫性腸炎のモデルマウスに投与して、症状を改善することに成功しました。
 PI3KはTh17細胞を増やすだけでなく、さまざまな細胞で細胞分裂や代謝を起こす重要な役割を担っています。今回明らかになった新たな仕組みをさらに研究することによって、Th17細胞の増加にのみ関わるたんぱく質を抑制することができれば、さまざまな自己免疫疾患に対する、副作用の少ない治療法の開発につながるものと期待されます。
 本研究成果は、2012年3月29日(米国東部時間)に米国オンライン科学雑誌「Cell Reports」で公開されます。


 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
  戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
   研究領域:「アレルギー疾患・自己免疫疾患などの発症機構と治療技術」
        (研究総括:菅村 和夫 宮城県立病院機構 理事長)
   研究課題名:「細胞内シグナル制御による免疫リプログラミング
   研究代表者:吉村 昭彦(慶應義塾大学 医学部 微生物学・免疫学教室 教授)
   共同研究者:永井 重徳(慶應義塾大学 医学部 微生物学・免疫学教室 助教)
   研究期間:平成20年10月〜平成26年3月
 JSTはこの領域で、アレルギー疾患や自己免疫疾患を中心とするヒトの免疫疾患を予防・診断・治療することを目的に、免疫システムを適正に機能させる基盤技術の構築を目指しています。
 上記研究課題では、細胞内のシグナル伝達制御機構の解明とその人為的な調節により新たな免疫疾患治療の方法論を開発することを目指します。


<研究の背景と経緯>
 生体の免疫システムでは、免疫細胞と呼ばれる細胞がさまざまな病原体を監視して私たちが病気にならないように働いています。免疫細胞の一種であるヘルパーT(Th)細胞は、病原体の種類に応じてTh1、Th2、Th17細胞に分化することが知られており、これらの細胞によって効率良く病原体が排除されます。Th17細胞は、炎症反応を引き起こして病原体を排除しますが、自己免疫疾患である関節リウマチや炎症性腸疾患などを悪化させる細胞であるとも考えられています。Th17細胞の分化の仕組みが分かれば、Th17細胞の増加が原因となる自己免疫疾患の治療につながる可能性があるため、その解明が期待されています。
 未分化なT細胞がTh17細胞へと分化するためには、抗原による刺激とともにインターロイキン6やTGFβというたんぱく質サイトカイン(注4))が必要であり、これらの刺激によって発現するRORγという転写因子(注5)がTh17細胞の分化に必須であることはすでに知られていました。一方、脂質リン酸化酵素の一種であるPI3K(以下、PI3K)はさまざまな細胞で細胞分裂や代謝などの細胞機能を調節する重要な役割を担っています。免疫細胞においても、PI3Kが免疫細胞の分化や機能に重要な役割を果たすことが知られており、Th17細胞の分化にも関与されていることが予想されていましたが、どのように関わっているかについては不明でした。


<研究の内容>
 本研究グループはPI3KとTh17細胞の関係を調べるため、未分化のT細胞をTh17細胞に分化させる時にPI3Kの酵素活性を阻害する薬剤を加え、Th17細胞への分化が抑制されることを発見しました。また、PI3Kを破壊した未分化のT細胞をTh17細胞に分化させる実験も行い、同様に抑制されることを確認しました(図1A、B)。
 次に、PI3Kとともに機能するたんぱく質に注目しました。PI3Kの活性化はAktというたんぱく質リン酸化酵素(注6)の活性化を促し、AktはmTORC1(注7)というたんぱく質複合体を活性化することが知られています。このAktの活性を人為的に増強させたところ、Th17細胞の分化が促進されました。また、mTORC1阻害剤(ラパマイシン(注8))で処理した場合や、mTORC1の機能を破壊したT細胞でも、Th17細胞への分化が抑制されることを見いだしました(図1C)。さらに、実際に自己免疫性の大腸炎を発症するモデルマウスにラパマイシンを投与したところ、Th17細胞の分化誘導が抑制されるとともに、その症状が軽度になることが分かりました(図2)。すなわち、PI3K−Akt−mTORC1経路を抑制することによってTh17細胞の分化が抑制され、自己免疫性の炎症が抑制できることが分かりました。
 また、このPI3K−Akt−mTORC1経路によって、どのようにTh17細胞の誘導が引き起こされるかについて、その仕組みも調べました。その結果、この経路はTh17細胞の増殖を抑える「Gfi−1」と呼ばれる転写因子を抑制することが分かりました(図3)。これに加え、Th17細胞の誘導に必須であることが知られていた転写因子「RORγ」を核に移動させ機能させるためには、PI3K−Akt−mTORC1経路が必要であることも明らかになりました(図4、5)。


<今後の展開>
 本研究によって、PI3K−Akt−mTORC1経路がTh17細胞の分化を促進する仕組みが解明され、この経路の阻害剤の投与で自己免疫疾患のモデルマウスの症状が実際に改善されました。しかし、このPI3K−Akt−mTORC1経路はほかのさまざまな細胞機能に関わるため、この経路を阻害して自己免疫疾患の症状を改善しようとする場合は、副作用を避ける工夫が必要です。
 今回、Th17細胞への分化はPI3K−Akt−mTORC1経路によって、少なくとも2通りに制御されていることが明らかになりました。特にRORγを核に移動させることによってTh17細胞の分化を促進しているという発見は、ほかの細胞には影響を与えずにTh17細胞の分化を抑制できる免疫抑制剤の開発に貢献すると期待されます。


 ※以下の資料は添付の関連資料「リリース詳細」を参照
 ・参考図
 ・用語解説
 ・論文名

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