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理化学研究所、日本人の関節リウマチ発症に関わる9つの新規遺伝子領域を発見

2012-03-29

関節リウマチ発症に関わる9つの新規遺伝子領域を発見
−日本人関節リウマチ発症の関連遺伝因子をほぼ同定−


◇ポイント◇
 ・日本人47,926人を対象とした、これまでで最大規模の解析
 ・日本人での発症に関与する23遺伝子領域のうち、15領域が欧米人と共通
 ・日本人にふさわしい治療法の開発や、薬剤応答性の予測法の確立へ


 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、日本人の関節リウマチに関するゲノムワイド関連解析(GWAS: genome−wide association study)(※1)の大規模なメタ解析(※2)を行い、疾患発症に関わる9つの新たな遺伝子領域を発見しました。また、既に報告されていた36の遺伝子領域についても再評価を行ったところ、新規の9領域と合わせて23の遺伝子領域が日本人の関節リウマチ発症に関与しており、そのうち15の遺伝子領域が欧米人と共通であることが明らかになりました。これは、ゲノム医科学研究センター(久保充明センター長代行)自己免疫疾患研究チームの高地雄太上級研究員、山本一彦チームリーダーと、東京大学、京都大学、東京女子医科大学を中心に構成されたGARNETコンソーシアム(※3)、およびハーバード大学を中心とする欧米研究グループとの国際共同研究チーム(※4)の成果です。

 関節リウマチは、関節に炎症が続くことにより関節破壊を起こす代表的な自己免疫疾患(※5)ですが、発症には多くの遺伝因子と環境因子が関与しています。これまで、国内外の研究グループからGWASによって疾患発症に関わる遺伝因子が報告されてきましたが、個々の遺伝因子が疾患発症に与える影響は非常に小さく、それぞれの研究では明らかにできていない遺伝因子が多くあると考えられてきました。

 今回、より網羅的な探索を行うために日本人で行われた3つのGWAS(※6)をメタ解析しました。これは、日本人の関節リウマチ患者集団 9,351人と非患者集団 38,575人のDNA試料を用いた、自己免疫疾患ではこれまでにない大規模解析であり、日本人の関節リウマチ発症に関与する遺伝因子の主要なものについては、ほぼ同定されたといえます。この成果は、個々の遺伝因子をターゲットにした日本人にふさわしい関節リウマチ治療法の開発に加え、これらの遺伝因子を用いて、個人の病態や薬剤の効果を予測する方法の開発などにつながっていくことが期待できます。

 本研究成果は、科学雑誌『Nature Genetics』に掲載されるに先立ち、オンライン版(3月25日付け:日本時間3月26日)に掲載されます。


1.背景

 関節リウマチは、自己のタンパク質に対する免疫異常によって発症する代表的な自己免疫疾患で、国内に約50万人の患者がいます(出典:厚生労働省資料)。これまでの研究から関節リウマチの発症には多くの遺伝因子や、喫煙などの環境因子が関わることが知られています。遺伝因子としては、個人における遺伝子の塩基配列の多様性、すなわち遺伝子多型が疾患のかかりやすさに影響を与えていると考えられています。関節リウマチに関与する遺伝子多型の多くは、その疾患にかかっていない健常人もごく普通に保有するありふれた遺伝子多型です。これらの遺伝子多型は、その遺伝子の機能を質的・量的に変化させて、個人が示す免疫反応の強さなどに影響を与えます。これまで、ゲノムワイド関連解析(GWAS)によって関節リウマチ発症に関与する遺伝因子が国内外の研究グループより複数報告されてきました。しかし、個々の遺伝因子が疾患発症に与える影響は非常に小さく、それぞれの研究では明らかにできていない遺伝因子が多くあると考えられてきました。研究グループは、これらのGWASのメタ解析を行うことにより、これまでにない規模での包括的な遺伝因子探索を行いました。なお、今回の研究に使用したDNA(血清)試料の一部は、文部科学省委託事業「オーダーメイド医療実現化プロジェクト(個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト)」から配布を受けたものです。


2.研究手法と成果

 メタ解析では、これまで日本人で行われた3つのGWASデータを用いて、関節リウマチの患者集団4,074人と非患者集団16,891人について、ヒトゲノム全体に分布する約200万個の一塩基多型(SNP:Single−nucleotide polymorphism)(※7)を対象に、そのタイプ別頻度を統計学的に比較検討し、関節リウマチの発症と関連しているSNPを探索しました。また、この解析によって発見したSNPについて追認解析を行うため、別に集めた患者集団5,277人と非患者集団21,684人と比較して、結果の再現性を確認しました。その結果、新規の遺伝子領域として9つの領域(B3GNT2,ANXA3,CSF2,CD83,NFKBIE,ARID5B,PDE2A−ARAP1,PLD4,PTPN2)のSNPが疾患発症に関連していることが明らかになりました(図1)。これらの遺伝子領域に存在する遺伝子の多くは、リンパ球などの免疫系の細胞で発現しており、免疫系を過剰に活性化することによって、疾患発症に関わっていることが考えられます。いずれの遺伝子でも、発症しやすいタイプとしにくいタイプがあり、発症しやすいタイプの遺伝子は健常人でも20%〜80%の頻度があります。また、それぞれの遺伝子の発症しやすいタイプを持つと、1.1倍〜1.2倍程度疾患にかかりやすくなることが分かりました。したがって、これらの遺伝子のタイプの組み合わせによって、個人の発症の可能性が決まると考えられます。新規に明らかとなった9つの遺伝子領域について、他の自己免疫疾患の発症にも関与していないか検討したところ、ANXA3遺伝子領域が全身性エリテマトーデスと、B3GNT2およびARID5B遺伝子領域がバセドウ病発症にも関わっていることが明らかになりました。このことから、関節リウマチと他の自己免疫疾患の原因となる遺伝子領域は、一部共有されていることが分かりました。さらに、これまで国内外で報告されてきた関節リウマチの発症に関与する36遺伝子領域について再評価を行ったところ、今回発見した9領域と合わせて23遺伝子領域が日本人の発症に関与していることが確認されました。

 また、欧米人グループによって行われたメタ解析の結果と比較し、遺伝因子における人種間の違いを調べました。すると、23遺伝子領域のうち15遺伝子領域が共通領域であることが分かりました(図2)。一方で、残りの8領域については、欧米人での関連がはっきりしないため、関節リウマチの遺伝因子には少なからず人種差があることが考えられました。


3.今後の期待

 関節リウマチの治療法はここ10年で、飛躍的な進歩を遂げていますが、既存の治療法の効果は患者によって異なり、治療が十分に効かない場合もあります。。これは、病気の原因となっている遺伝因子・環境因子の組み合わせが、患者個人によって異なるためと考えられます。今回明らかになった遺伝子を狙って抑えることによって、日本人にふさわしい、副作用の少ない、より効果的な治療法の開発へつなげることができます。また、複数の遺伝因子や環境因子を組み合わせて解析することによって、患者個人の病態に即した治療法の選択手法の開発が加速することが期待できます。


<原論文情報>
 Okada Y et al.“Meta−analysis identifies nine new loci associated with rheumatoid arthritis in the Japanese population”
Nature Genetics, 2012. DOI 10.1038/ng.2231


< 補足説明 >

※1:ゲノムワイド関連解析(GWAS:Genome−Wide Association Study)
 病気に罹患している集団と、一般対象集団との間で、遺伝子多型の頻度に差があるかどうかを統計的に検定して、疾患と関連する領域・遺伝子を同定する手法。検定の結果得られたP値(偶然にそのような事が生じる確率)が小さい多型ほど、関連が強いと判断することができる。ゲノムワイド関連解析では、通常、ヒトゲノム全体を網羅するような数百万カ所のSNPを用いて解析する。

※2:メタ解析
 過去に行われた複数の研究結果を統合し、より信頼性の高い結果を求めること。また、そのための統計解析手法のこと。

※3:GARNETコンソーシアム
 The Genetics and Allied research in Rheumatic diseases Networking consotiumの略。
 リウマチ性疾患の遺伝学的背景を明らかにすることを目的に構成された国内コンソーシアム。

※4:共同研究チーム
 東京大学大学院医学系研究科内科学専攻アレルギー・リウマチ学 山本一彦 教授兼任/東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター 山中寿所長、桃原茂樹教授/京都大学医学研究科付属ゲノム医学センター 松田文彦センター長、山田亮教授、同医学研究科臨床免疫学 三森経世教授/ハーバード大学 ロバート M プレンジ博士(Dr. Robert M Plenge)との共同研究チーム。

※5:自己免疫疾患
 本来、ウイルスや細菌など外来性異物を排除するために働く免疫システムが、さまざまな要因によって、自己を構成する成分に対しても攻撃(自己免疫反応)して起こる疾患の総称。関節リウマチ以外にも、甲状腺の機能異常を引き起こすバセドウ病や1型糖尿病、全身性エリテマトーデスもこれに含まれる。

※6:3つのGWAS
 Kochi Y et al Nature Genetics. 2010やTerao C et al Hum Mol Genet. 2011 などに発表されたGWASデータを用いた。Kochi Y et al Nature Genetics. 2010については、2010年にプレスリリースを行っている。

※7:一塩基多型(SNP: Single−nucleotide polymorphism)
 個人の体質や疾患にかかり易すい度合いは、環境要因とともにゲノムの塩基配列の多様性によって決まる。その配列の違いのうち、集団での頻度が1%以上のものを遺伝子多型とよび、なかでも、一塩基の違いによるものを一塩基多型とよぶ。


*図1、2は添付の関連資料を参照

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