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理化学研究所、川崎病の発症に関わる3つの遺伝子領域を発見

2012-03-29

川崎病の発症に関わる3つの遺伝子領域を新たに発見
−白人集団と遺伝的要因に違いがあることを示唆−



◇ポイント◇
 ・日本人川崎病患者1,182人と非患者4,326人を対象に解析
 ・川崎病と自己免疫疾患の両方に関連する遺伝子領域が明らかに
 ・病態の理解や新たな治療法の開発、東アジア人に発症が多い原因の解明に期待


 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、日本人集団を対象に、川崎病に関するゲノムワイド関連解析(GWAS)(※1)を行い、発症に関わる3つの遺伝子領域を新たに発見しました。これは、理研ゲノム医科学研究センター(久保充明センター長代行)循環器疾患研究チームの田中敏博チームリーダー(副センター長兼務)、尾内善広客員研究員を中心とする多施設共同研究(※2)による成果です。

 川崎病は、乳幼児を中心に発症する原因不明の発熱性疾患で、1967年に日本赤十字社医療センター小児科医の川崎富作博士(現日本川崎病研究センター理事長)によって、初めて報告されました。大半が自然に治癒しますが、心臓の冠状動脈瘤(りゅう)(※3)などの合併症が生じることがあり、先進国における小児の後天性心疾患の最大の原因にもなっています。

 川崎病は東アジア人に多いことや、家族内での発症が多いことなどから、遺伝的要因が関与していると考えられています。実際に研究グループらは、2007年にITPKC遺伝子、2010年にCASP3遺伝子が川崎病に関わっていることを発見しました。

 今回研究グループは、川崎病の発症のしやすさに関わる他の遺伝子を発見するため、日本人の川崎病患者428人と非患者3,379人を対象に、ヒトゲノム全体に分布する約47万個の一塩基多型(SNP:Single Nucleotide Polymorphism)(※4)のゲノムワイド関連解析(GWAS)を行いました。さらに、川崎病との関連の傾向が認められたSNPのなかから上位100個を選抜し、別の2集団(患者:計754人、非患者:計947人)で再現性を検証しました。その結果、新たにFAM167A−BLK、CD40、HLAの3つの遺伝子領域が川崎病と強く関連することが分かりました。このうち、FAM167A−BLKとCD40の遺伝子領域は、成人期に見られる関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患とも関連することが知られています。また、2011年に別の研究グループが白人集団で実施したGWASでは、HLAの遺伝子領域と川崎病の関連は見られておらず、人種によって関連する遺伝的要因に違いがあることを示唆しました。

 今回の成果は、複数の成人期の自己免疫性疾患に共通な病態が川崎病にも当てはまる可能性を示しており、不明な部分が多い川崎病の病態の理解や新たな治療法の開発に加え、川崎病の発症が東アジア人に多い原因の解明につながると期待できます。

 本研究成果は、科学雑誌『Nature Genetics』に掲載されるに先立ち、オンライン版(3月25日付け:日本時間3月26日)に掲載されます。


1.背景
 川崎病は、(1)5日以上続く発熱、(2)両側眼球結膜の充血、(3)口唇紅潮や咽頭粘膜の発赤、(4)不定型発疹、(5)四肢末端の変化、(6)頚部リンパ節腫脹などを主要症状とする疾患で、1歳前後を中心に、主に6カ月〜4歳以下の乳幼児が発症します。発症時期が胎盤を通して母体から授かる受動免疫の消退時期と一致することや、これまでに全国規模の大流行が起こったことから、川崎病にはある種の病原体の感染が関連していると考えられていますが、いまだ原因となる菌やウイルスは特定できていません。

 川崎病は全身の中小動脈に生じる血管炎ですが、特に心臓の冠状動脈が強く侵されたまま治療を受けないでいると、20〜25%の患者に冠状動脈瘤(りゅう)や冠動脈拡張といった合併症が生じます。冠状動脈瘤が血栓で閉塞し、急性心筋梗塞により突然死することもあるため、治療は早期に炎症を抑えて合併症の発生を防ぐことを主眼に行われています。1980年代後半頃からのガンマグロブリンを大量に投与する方法(IVIG(※5))の導入により、この合併症の発生率は5%以下に抑えられています。

 しかし、川崎病は先進国における小児の後天性心疾患の原因としてトップに位置し、IVIG治療の効果が乏しい患者も約15%見られることから、その予測や対処法の開発が急がれています。特に日本人に発症例が多く、患者数は年間約12,000人にも達しています(出典:第21回川崎病全国調査成績、2011年)。韓国、台湾でも、日本に次いで発症率が高いことや、海外に移り住んだ日系人の発症率が現地の人々に比べて高いこと、さらに、兄弟・姉妹、親子での発症が多いことから、その背景に遺伝的要素が関係すると考えられています。

 研究グループらは、これまでに川崎病の発症のしやすさに関連するITPKC遺伝子とCASP3遺伝子のSNPを発見しています。(2007年12月17日プレスリリース、2010年5月12日プレスリリース)。今回、ヒトゲノム全体をより網羅的に調べ他の新たな関連遺伝子を発見するために、ゲノムワイド関連解析(GWAS)に挑みました。


2.研究手法と成果
 研究グループは、川崎病の遺伝的要因をさらに明確にするため、日本人の乳幼児から年長児(0歳〜12歳)の川崎病患者428人と成人の非患者3,379人について、ヒトゲノム全体に分布する約47万個のSNPのGWASを行い、川崎病の発症と関連しているSNPを検索しました(図1)。次に、関連の傾向を認めたSNPの中から上位100個を選抜し、別に収集した第2の集団(川崎病患者470人、非患者378人)および第3の集団(川崎病患者284人、非患者569人)を用いて関連の再現性を検証しました。その結果、8番染色体短腕(※6)のFAM167A遺伝子とBLK遺伝子の間(FAM167A−BLK)の領域、20番染色体長腕(※6)のCD40遺伝子の領域、6番染色体短腕のHLA遺伝子の領域のSNPで強い関連が確認できました(表1)。

 FAM167A−BLKとCD40の遺伝子領域については、成人期に見られる関節リウマチや全身性エリテマトーデスなど、自己免疫性疾患の発症との関連が知られている領域と一致していました。また、別の研究グループが2011年に白人集団(オランダ、イギリス、オーストラリア、アメリカ人が対象)で実施したGWASでは、HLA領域に川崎病との関連は見られておらず、同じ疾患でも人種によって関連する遺伝的要因に違いがあることを示唆しました。


3.今後の期待
 今回の成果は、成人期の自己免疫性疾患に共通な病態が川崎病にも当てはまる可能性を示しており、不明な部分が多い川崎病の病態の理解や新たな治療法の開発に役立つと期待できます。また、これまで明確ではなかったHLA領域の関連が確かめられたことで、この領域をより詳細に調べると、川崎病が東アジア人に多い謎の解明につながると期待できます。

 〔原論文情報〕
  Yoshihiro Onouchi and Kouichi Ozaki et al.“A genome−wide association study identifies three new loci for Kawasaki disease”. Nature Genetics, 2012,doi:10.1038/ng.2220



*以下の資料は添付の関連資料「補足説明/図1、表1」を参照
 ・補足説明
 ・図1 川崎病の発症しやすさに関するゲノムワイド関連解析の結果
 ・表1 新たに同定した3つの遺伝子領域のSNPと川崎病との関連


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