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東大、集積可能な電子の2経路干渉計を実現

2012-03-24

「集積可能な電子の2経路干渉計を世界で初めて実現
―量子情報の長距離伝送や高速制御へ―」



1.発表者:
 樽茶 清悟(東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻 教授)
 山本 倫久(東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻 助教)
 高田 真太郎(東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻 博士課程1年)


2.発表概要:
 半導体基板上で電気的に制御できる集積可能な2経路干渉計注1)を世界で初めて実現しました。
 また、空間的に移動している電子がどちらの経路に存在するかを量子ビット注2)として扱い、その“飛行量子ビット”の状態を電気的に制御しました。この飛行量子ビットを用いた新しいアーキテクチャー(設計思想)は、量子計算において最も本質的とされる量子もつれ状態注3)の制御に適していると考えられ、半導体を用いた量子計算機の実現に向けて大きな進展をもたらすことが期待されます。


3.発表内容:
 古くはヤングの光の干渉実験注4)で、より最近では二重スリットの実験注5)などで知られる2経路干渉は、光や電子といった量子の波としての性質(=位相情報)を最も端的に示す現象です。特に、真空中で行われた電子の二重スリットの実験は、電子の持つ粒子と波動の二重性注6)を見事に捉えたものであり、前世紀に行われた最も美しい物理実験のひとつとして評価されています。このような2経路干渉実験が集積可能な固体中で実現すれば、電子の波としての性質を利用した量子力学的なデバイスを、電子を量子ドット注7)に閉じ込めることなく構築することが可能になります。しかし、見た目の単純さとは裏腹に、その実現は困難を極め、世界中の研究者の挑戦を跳ね返し続けてきました。その難しさは、半導体中の電子の干渉が、通常は電子の到達を観測する電極の接続によって制約を受ける複雑で制御不能な多経路干渉注8)になることに由来しています(注7参照)。これまでに固体中で実現された唯一の2経路干渉計として知られる量子ホール状態注9)での電子のマッハツェンダー干渉計注10)も、強磁場を必要とすること、干渉計内部の電荷の揺らぎの影響によって波の位相情報が失われ易いこと、他の電子素子との整合性が悪いことなどから、集積化に適しているとは言い難いものです。他の電子素子との接合や集積化に適した純粋な2経路干渉計を実現することは、メゾスコピック系注11)の物理が注目されるようになった80年代以降、長年にわたって固体物理学者の目標とされていました。
 本研究チームは、一次元細線注12)を2本並べ、これらを2つの経路として用いました。そして、干渉を起こすために、これらの細線の両端を量子力学的なトンネル効果注13)を利用したトンネル結合によって結びました。従来の干渉計では2つの経路を電気的に直接繋いでいたのに対し、トンネル結合だけを用いてこれらを繋ぐという一見単純なアイデアが本研究の重要なポイントです。本研究チームは、トンネル結合の強さを電気的に調整することによって2つの経路の繋ぎ目(トンネル接合面)において電子が通過する経路を量子力学的に限定し、2経路だけの干渉を実現しました。様々な経路が混ざって複雑な挙動を示す従来の量子干渉計とは異なり、2経路干渉計では、電子が各経路で獲得する波の位相成分を正確に評価し、利用することが可能です。本研究では、2経路干渉計中で「どちらの経路に電子が存在するか」という量子力学的な状態を量子情報(量子ビット)として定義し、その制御を行いました。そして、経路間のトンネル結合と各経路の位相を電気的に制御することにより、2経路干渉計を通過する電子の量子情報を任意に操作できることを示しました。これは、量子を回路中で伝送させながらその状態を制御する“飛行量子ビット”の制御を固体中で行った初めての実験です。更に、この量子情報は、電子がかなり長い距離(100ミクロン程度)を伝送するまで失われないことを示しました。
 この新しい技術を利用することにより、量子情報を半導体基板上で自由に伝送したり、高速で運動する電子を使って量子情報を従来と比べて遥かに高速で制御したりすることが可能になります。
 すなわち、量子光学的な実験を集積可能な電気回路を使って行うことが可能になります。また、飛行量子ビットを用いた斬新なアーキテクチャー(設計思想)では、他のあらゆる固体量子ビット系と異なり、量子情報の制御のほとんどを省エネルギーな直流電圧によって容易に行うことができます。それに加え、量子間の距離や相互作用を自在に変えられることから、量子計算において最も本質的とされる量子もつれ状態の制御に適していると考えられます。量子もつれを利用することにより、従来の計算機が苦手とする暗号解読やデータベース検索などの複雑な計算処理を、桁違いに高速に、また超並列的に行うことが可能になります。更に、位相を直接的に正確に評価できるという2経路干渉計の特長を生かし、様々な量子力学的な電気伝導現象を位相を元に探求する際にも利用することができるため、この技術は、電子相関などの解明に向けた基礎研究にも大きく寄与すると考えられます。
 本研究は、文部科学省科学研究費補助金「若手研究A」、文部科学省科学研究費補助金(新学術領域研究)「量子サイバネティクス」、最先端研究開発支援プログラム、JST国際科学技術共同研究推進事業(戦略的国際共同研究プログラム)「トポロジカルエレクトロニクス」などによる研究の一環として、フランスのNeel研究所とドイツのRuhr−Universitat Bochumと共同で行われました。


4.発表雑誌:
 雑誌名:Nature Nanotechnology
 論文タイトル:Electrical control of a solid−state flying qubit(固体飛行量子ビットの電気的制御)
 著者:
  Michihisa Yamamoto, Shintaro Takada, Christopher Bauerle, Kenta Watanabe, Andreas D.
  Wieck and Seigo Tarucha



※以下の資料は添付の関連資料「添付資料」を参照
 ・用語解説
 ・添付資料


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