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東北大、胎生期脳の幹細胞から神経細胞が生まれる仕組みを解明

2012-03-10

胎生期脳の幹細胞から神経細胞が生まれる仕組みの解明
サイクリンD2が片方の娘細胞に受け継がれ、未分化性を維持する―



 複雑な神経回路を構成する哺乳類の大脳発生過程において、細胞増殖や分化により、多数の神経細胞が秩序だって産生されることは非常に重要です。東北大学大学院医学系研究科の大隅典子教授、恒川雄二研究員(当時、現所属;Scripps研究所)らは、発生期の哺乳類神経幹細胞において、細胞周期調節因子Cyclin D2(サイクリンD2)が脳原基の外側である基底膜面の先端(基底膜面突起、図1参照)に局在することを発見しました。また、Cyclin D2は神経幹細胞が2つの娘細胞に分裂する際に基底膜面突起と共に片方の娘細胞に受け継がれ、その細胞の運命を未分化な状態に維持する働きがあることを明らかにしました。さらに、このCyclin D2による細胞未分化性の維持は、哺乳類でのみ存在することから、進化の過程で獲得したメカニズムである可能性が考えられます。今後の研究の進展により、ヒト脳において莫大な数の神経細胞が産生され、脳が大きくなった仕組みの解明につながっていくことも期待されます。本研究成果は専門家の間で非常に着目される可能性があることから、欧州科学誌EMBOジャーナルに「Have you seen?」という紹介コラム付きで間もなく掲載されます。


【研究内容】
 大脳発生初期において神経幹細胞は対称分裂を繰り返し、未分化な細胞を増殖させていきます。必要な数の神経幹細胞が産生され、ニューロン産生期に入ると分裂パターンに変化が生じ、非対称に分裂するものが現れ始めます。片方の娘細胞は細胞周期を逸脱してニューロンへと分化し、一方基底膜面突起を受け継いだもう片方の細胞は再び細胞周期に戻ることにより未分化性を維持した神経幹細胞となります(図1)。哺乳類神経幹細胞の非対称分裂において、娘細胞に非対称性を生じさせる運命決定因子、またその非対称分配のメカニズムの多くは未知のままでした。
 我々の研究グループは、非対称分裂の際、基底膜面突起が片方の娘細胞のみに受け継がれる現象に着目し、細胞周期調節因子として知られているCyclin D2(サイクリンD2)のmRNAおよびタンパク質が、ニューロン産生期において神経幹細胞の基底膜面突起に局在していることを発見しました(図2)。この結果から我々はCyclin D2が神経幹細胞の非対称性に関わっているという仮説を立てこれを証明する実験を始めました。
 はじめに我々は、Cyclin D2mRNAには細胞体から基底膜面突起に移動するに必要十分な、輸送配列が存在することを明らかにしました。このような配列は世界で初めて報告されたものです。さらに胎仔脳に対する電気穿孔法および全胚培養法により、Cyclin D2mRNAが輸送された先の基底膜面突起で局所的に翻訳されていることを確認しました。次に、レンチウイルスを用いて非対称分裂後の姉妹細胞を可視化し、基底膜面突起を受け継いだ娘細胞が有意にCycin D2を発現し、その細胞の運命が幹細胞であることを明らかにしました(図3)。さらに、Cyclin D2を細胞に強制発現させると幹細胞として振る舞い、逆にsiRNAによるCyclin D2の機能欠失を行うと分化したニューロンになることが分かり、Cyclin D2が細胞の運命を未分化な状態に維持している働きがあることを明らかにしました(図4)。
 一連の結果から次のようなメカニズムが想定されます。Cyclin D2mRNAは特異的な配列をもとに基底膜面突起に輸送され、局所的に翻訳されることにより基底膜面突起に蓄積されます。非対称分裂の際に片方の娘細胞に基底膜面突起が受け継がれることにより、そこに蓄積していたCyclin D2が非対称に片方の娘細胞に受け継がれ、その細胞を未分化な状態に維持します。このことにより分裂した姉妹細胞間において運命の非対称性が生まれます(図5)。
 Cyclin D2は胎生期のヒト終脳においても基底膜面突起に局在し、輸送配列が存在しました(この配列はチンパンジーアカゲザルオラウータンでも72〜80%で保存されています)。興味深いことに、大脳皮質に層構造を持たないニワトリでは、Cyclin D2の局在パターンも輸送配列も確認されませんでした。これらの結果は、Cyclin D2の非対称分裂時における未分化性維持が進化の過程で哺乳類が獲得したメカニズムである可能性を示唆しています。また、本研究成果から、胎生期神経幹細胞において、幹細胞を維持することにおいて基底膜側の突起の重要であることが強く示唆されました。このことは、ヒトを含む霊長類の大脳皮質原基において、基底膜側突起を有する神経幹細胞が多数存在することに鑑みて、多数のニューロンを産生して大きな大脳皮質を構築するストラテジーの一端を示していると思われます。

 *本成果は、文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究(研究領域提案型)」神経細胞の多様性と大脳新皮質の構築(領域代表者自然科学研究機構基礎生物学研究所山森哲雄)、および文部科学省グローバルCOEプログラム(脳神経科学を社会へ還流する教育研究拠点、代表者:大隅典子東北大学大学院医学系研究科教授)の支援によって得られました。



※以下の資料は添付の関連資料「添付資料」を参照
 ・図1.大脳発生の模式図
 ・図2.E(胎生)10.5,12.5,14.5日マウスの終脳におけるCyclin D2のmRNAおよびタンパク質の発現パターン
 ・図3.Cyclin D2は片方の娘細胞に基底膜面突起と共に受け継がれる
 ・図4.Cyclin D2は神経幹細胞の運命決定に寄与している
 ・図5.Cyclin D2の神経幹細胞における非対称運命決定機構の仮説
 ・用語説明
 ・論文題目


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