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東大、植物細胞内に感染するリケッチア科のバクテリア「MIDORIKO」を発見

2012-02-27

はじめて分子同定された植物細胞内感染性リケッチア
―宿主共存性リケッチア科バクテリア"MIDORIKO"―



 発表概要生物の細胞内に別の生物が共存すること(細胞内共生)によりミトコンドリアが生まれ、動植物の真核細胞が誕生したが、その詳細は謎に包まれている。今回私たちは、1970年以来未解明であった緑藻類ボルボックス目の細胞内に共生するバクテリアの分子同定に成功し、世界で初めて植物細胞内に感染するリケッチア科のバクテリア"MIDORIKO"を発見した。リケッチア科のバクテリアは通常昆虫やダニ等の細胞内に存在しており、ヒトに感染すると危険な病原菌を含む。しかし、"MIDORIKO"は植物細胞に感染し、宿主に危害を与えることなく増殖していた。リケッチア科はミトコンドリアの祖先に近縁と考えられており、宿主の植物細胞とそんなに悪くない「まずまずの関係」で生育する"MIDORIKO"の発見は、今後の医学及びミトコンドリアの初期進化過程の研究に大いに役立つと期待される。


<発表内容>
1.これまでの研究でわかっていた点
 ヒトをはじめとする動植物の真核細胞の中には、ミトコンドリアという酸素呼吸をする細胞内器官がある。ミトコンドリアは、約20億年前にリケッチアに類似したバクテリア(真正細菌)が細胞内に共生したものに由来すると考えられており、真核細胞のミトコンドリアのDNAを調べると現生のリケッチアに近縁であることがわかる。一般に、ある生物の細胞内に別の細胞が長い間共存している状態を「細胞内共生」という。細胞内共生の代表的な例として、ダイス等のマメ科植物の根の細胞内に共生するバクテリア「根粒菌」があるが、根粒菌は植物に根粒という住みかを提供してもらう代わりに、宿主植物に根粒菌によって固定された空中の窒素を栄養源として利用できるという新しい機能を獲得する。このように、細胞内共生によって複数の生物が関わり合うことは、新しい機能の獲得による高次生命体への進化の大きな原動力となる。ミトコンドリアの他に、植物細胞の「葉緑体」も昔は別のバクテリア(シアノバクテリア)であり、細胞内共生によって細胞内器官(葉緑体)へと進化したと考えられている(図1)(※)。

 ※図1は添付の関連資料を参照


 バクテリアの細胞内共生は真核細胞の起源と進化を解明する上で非常に重要な現象であるが、植物を用いたもので研究が進んでいるのは根粒菌とマメ科植物のような一部のものに限られていた。一方、緑藻類のボルボックス目(注1)には、細胞内にバクテリアが共生しているものの存在が40年以上前からボルボックス電子顕微鏡による観察で知られていて(文献1)、この共生バクテリアのDNAをCsCl濃度勾配超遠心法で分画する研究があり(文献2)、ボルボックス以外の複数のボルボックス目で形態観察の報告はあったが(文献3−5)、共生バクテリアの種類や性質については不明のままであった。

2.研究が新しく明らかにしようとした点とそのために新しく開発した方法
 バクテリアの分類同定には、リボゾームRNA遺伝子配列を用いた分子同定(注2)が一般的に用いられるが、緑藻のような植物では葉緑体DNAにバクテリアとよく似たリボゾームRNA遺伝子が存在し、その量も多いため、沢山の葉緑体の遺伝子の中から未知のバクテリアの遺伝子を選り分けて解析を行うことは困難である。今回私たちは緑藻ボルボックス目の仲間のうち、単細胞で4本の鞭毛を持つカルテリア(文献5)の葉緑体のリボゾームRNA遺伝子に転移性のグループIイントロン(注3)が介在することを発見し、このイントロンの有無を利用してボルボックス目で初めて細胞内共生バクテリアの分子同定を行うことができた。過去によく似た細胞内共生バクテリアが発見されていた、群体性の緑藻プレオドリナにおいても(文献3)、この結果を用いることでバクテリアの分子同定に成功した。

3.この研究で得られた結果、知見
 バクテリアのリボゾームRNA遺伝子を用いた分子系統樹の構築による分子同定を実施した結果、カルテリアとプレオドリナ、2種類の緑藻の細胞内共生バクテリアはリケッチア科(注4)に所属することが明らかとなった(図2)(※)。リケッチア科に含まれるバクテリアは、ほとんどの種類が昆虫やダニ等の節足動物の細胞内に共生することが知られているが、今回私たちが発見したリケッチア科のバクテリア"MIDORIKO"は、節足動物ではなく植物細胞内に存在するという点でユニークである。"MIDORIKO"の植物細胞内での存在を確証するために、"MIDORIKO"のリボゾームRNAだけに特異的に結合するDNA断片を用いた蛍光染色(FISH;(注5))を行ったところ、緑藻細胞内のバクテリアだけが染色され、"MIDORIKO"に特徴的な桿菌状の形状が観察できた(図3)(※)。リケッチア科と植物の共生関係は以前から疑われていたが直接の証拠は無く(文献6)、植物細胞の中にリケッチア科のバクテリアが感染していることを明らかにしたのは本研究が世界で初めてである。

 ※図2、3は添付の関連資料を参照


 2種類の緑藻、単細胞のカルテリアと群体性のプレオドリナは系統的に比較的離れているが、それぞれの細胞に共生している"MIDORIKO"同士は極めて近縁である。従って、これらの緑藻がリケッチア科バクテリアに感染して共生が始まったのは、進化的に見ると比較的最近であると考えられる。また、単細胞であるカルテリア宿主細胞の増殖を調べたところ、"MIDORIKO"を持っている株も正常に成長することがわかった。共生している"MIDORIKO"は観察した全てのカルテリア細胞内に存在が認められたことから、宿主のカルテリアが細胞分裂で増殖するとき、次世代に"MIDORIKO"がもれなく受け継がれるものと考えられる(図4)(※)。以上の結果から、宿主の緑藻と共生する"MIDORIKO"はそんなに悪くない「まずまずの関係」であると言えそうである。

 ※図4は添付の関連資料を参照


4.研究の波及効果、今後の課題
 リケッチア科に含まれるバクテリアの中には、ツツガムシ病を引き起こすオリエンチア・ツツガムシ(学名Orientia tsutsugamushi)や、日本紅斑熱の原因であるリケッチア・ジャポニカ(学名Rickettsia japonica)といった危険な病原菌もある。培養が非常に容易な緑藻類、特に単細胞であるカルテリアからリケッチア科のバクテリア"MIDORIKO"が発見されたことにより、リケッチア科のバクテリアによる感染と宿主細胞内での増殖のメカニズムの研究が進展することが期待される。

 一方、リケッチア科のバクテリアは、ミトコンドリアの起源となったバクテリアに近縁であると考えられている。今回のリケッチア"MIDORIKO"は宿主の緑藻細胞に悪影響を及ぼさないことが判明したが、"MIDORIKO"の存在による宿主細胞への明確な影響は本研究では明らかにできなかったので、今後は"MIDORIKO"の宿主に対する具体的なメリットやデメリットを解析することが課題となる。「ミトコンドリア」は太古の昔にリケッチアに類似したバクテリアが宿主細胞に悪影響を及ぼすことなく共生した結果であることは間違いないので、今回の宿主の植物細胞と「まずまずの関係」を持つリケッチア"MIDORIKO"はミトコンドリアの共生進化の最初を知る重要な手がかりになることが予想される。

 本研究は、東京大学大学院理学系研究科と東京工業大学、京都大学の共同研究で行われた。また、文部科学省の科学研究費補助金(基盤研究A、課題番号20247032、代表者 野崎久義;新学術領域研究「動植物アロ認証」、課題番号22112505、代表者 野崎久義)の支援を受けた。


 ※以下、リリース詳細は添付の関連資料を参照

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