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生理学研究所、目から入ってくる沢山の視覚情報を取捨選択して脳に伝える仕組みの一端を解明

2012-02-18

目から入ってくる溢れるような視覚情報を "くっきり"させて脳に伝える仕組みの一端を解明


【内容】
 目から入ってくる溢れるような視覚情報を “くっきり”させて脳に伝える仕組みの一端を解明

 ヒトや動物は、目に入ってくる光の信号をもとに、どこに何があるのか、刻々と変化する周りの環境の多くを把握しています。そうした溢れるような視覚情報の渦から必要な情報を取捨選択して、脳は整合性のあるイメージを作り出しています。今回、自然科学研究機構・生理学研究所の松井広(まつい・こう)助教らの研究グループは、どのような信号を脳へ伝えるべきか、その取捨選択を、目から脳への神経のつなぎ目にあたる中継シナプスが担っていることを明らかにし、信号選別の仕組みを解明しました。米国神経科学会誌(ザ・ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス、2012年2月15日号電子版)に掲載されます。


 目から入ってきた溢れるような多種多彩な視覚情報は、視神経をつたわって、脳に送られる途中で、視床にある外側膝状体とよばれる部分で中継されます。その中継点で、神経のつなぎ目であるシナプスを作っています。
 今回、研究グループは、この外側膝状体シナプスに注目。このシナプスでは、目からの情報を伝えるシナプスが、5−30個も隣同士に所狭く並んでいる構造をしていることを電子顕微鏡によって明らかにしました。さらに、そのシナプスのうちの一か所に入力(神経伝達物質であるグルタミン酸の放出)があると、そこからグルタミン酸が周囲のシナプスにまで漏出し、まわりのシナプスの反応性を低下させる仕組みがあることを発見しました。この仕組みによって、目から立て続けに信号が送られてきても、その一部が強調され、その他は取り除かれて、視覚情報を“くっきり”させる仕組みがあることを突き止めました。

 松井助教は、「これまで神経の回路の研究は、単なる電子回路のように、どことどこがつながっているか考えるだけだったが、神経のつなぎ目の中継地点では、お互いに干渉しあって、情報をフィルターしていく賢い仕組みがあることを突き止めました。こうした賢い仕組みは、より人間に近い画像情報処理機能をもったカメラ開発にも応用できるかもしれません」と話しています。

 本研究は文部科学省・科学研究費補助金による支援をうけて行われました。


【今回の発見】

1.目から入ってきた視覚情報が脳の視覚野に伝わる途中の視床にある外側膝状体とよばれる部分の中継シナプスでは、目からの情報を伝えるシナプスが、5−30個も隣同士に所狭く並んでいる構造をしていることを電子顕微鏡によって明らかにしました。

2.1の中継シナプスでは、一か所のシナプスに入力(グルタミン酸の放出)があると、シナプスからグルタミ
ン酸が漏出し、これによって、周囲のシナプスの働きを低下させてしまう仕組みがあることを明らかにしまし
た。


3.2の仕組みによって、目から立て続けに信号が送られてきても、その一部が強調され、その他は取り除かれて、視覚情報を“くっきり”させる働きがあることを突き止めました。


図1:目(網膜)からの視覚情報は、視床(外側膝状体)を通って、脳の視覚野へ送られます

 ※添付の関連資料を参照


 眼の「網膜」で見た情報は、「視床」を経由して、「視覚野」に送られ、ここで初めて「見ている」として意識されます。(生理学研究所吉田正俊先生 画)

図2:目(網膜)と脳(視覚野)の中継点である視床(外側膝状体)の中継シナプスの特殊な構造

 ※添付の関連資料を参照

 目(網膜)からの情報を伝える神経(右の黄色)と、視床の外側膝状体の神経(水色)の中継地点の電子顕微鏡3D立体構築写真。このつなぎ目には、いくつものシナプス(左の赤色)が所狭しと並んでいることがわかりました。

図3:一か所のシナプスから漏出したグルタミン酸が周囲の他のシナプスに影響

 ※添付の関連資料を参照

 目(網膜)からの情報を伝える神経と、外側膝状体の神経の中継地点の電子顕微鏡写真。4か所にシナプスがある(4つの黒の矢尻)。中央のシナプス(矢印)に入力(グルタミン酸の放出)があると、そこから、左右のシ
ナプスにまで隙間を伝わってグルタミン酸が漏出していくことがわかりました。シナプス間隙の虹色はグルタミ
ン酸の濃度を表しています(赤色が最も濃く、青色が最も薄い)。このグルタミン酸の漏出によって、周囲のシ
ナプスの反応性が低下することがわかりました。

図4:グルタミン酸の漏出によって、周囲のシナプスの反応性が低下する

 ※添付の関連資料を参照


<今回の発見>

 ※添付の関連資料を参照

 シナプスが6か所ある外側膝状体の中継点に、目からの入力がまず3か所のシナプスにあり、続けて周囲の2か所のシナプスで入力があった場合を想定してみます。最初の入力でシナプスから漏出したグルタミン酸が、他のシナプスの反応性を低下させます。すると、続けて入力があったとしても、その反応は鈍くなってしまいます。


【この研究の社会的意義】
 目からの溢れんばかりの視覚情報を“くっきり”選別する賢い仕組みの一端を証明

 今回の研究によって、目(網膜)からの視覚情報を中継する外側膝状体の中継シナプスでは、シナプスから漏出したグルタミン酸が、周囲の他のシナプスに影響をあたえ、これによって、目からの溢れんばかりの視覚情報の選別を行っているという賢い仕組みがあることが分かりました。
 これまでシナプスは神経による“電子回路”の“つなぎ目”とだけ考えられる傾向がありましたが、シナプスから神経伝達物質グルタミン酸)が周囲の他のシナプスへと漏れ出ていることで作用することもあることが明らかになりました。今後、薬の脳のシナプスに対する効き目を考える際には、こうしたシナプスからの神経伝達物質の漏れや広がりも考慮にいれる必要があると考えられます。

図5:目からの溢れんばかりの情報は、脳(視覚野)に伝わる前に賢く選別される

 ※添付の関連資料を参照


【論文情報】
 Mechanisms underlying signal filtering at a multi−synapse contact Timotheus Budisantoso*, Ko Matsui*, Naomi Kamasawa, Yugo Fukazawa,Ryuichi Shigemoto
 米国神経科学会雑誌(ザ・ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス)2012年2月15日号(電子版)

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