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JSTと物質・材料研究機構、オイルを浄化できる有機溶媒に耐性のある極薄の多孔性カーボン膜を開発

2012-02-01

オイルを浄化できる超高性能ろ過フィルターを開発
−ナノ細孔中の高速粘性透過を世界に先駆けて実証−



 先端的共通技術部門 高分子材料ユニットの研究者らは、有機溶媒に耐性のある極薄の多孔性カーボン膜を開発し、従来のろ過フィルターと比較して、不純物の除去速度を約3桁向上させることに成功した。


<概要>
 1.独立行政法人 物質・材料研究機構(理事長:潮田 資勝)先端的共通技術部門 高分子材料ユニット(ユニット長:一ノ瀬 泉)の分離機能材料グループの研究者らは、中核機能部門電子顕微鏡ステーションとの共同で、直径約1ナノメートルの細孔を持つ極薄の多孔性カーボン膜を開発することに成功した。

 2.耐有機溶媒性のろ過フィルターは、超低硫黄ディーセル油の製造、オイルサンド(注1)開発における排水処理プロセス、化学工業における溶媒の再利用などに、期待がかけられている。しかしながら、従来のろ過フィルターは、酸・アルカリ、加熱などにより劣化しやすく、細孔径が1ナノメートル程度のフィルターでは、水以外の溶媒を透過させることが困難であった。

 3.今回の研究では、高強度のカーボン膜を形成させることで、約35ナノメートルの薄さでも優れた力学的強度を有するろ過フィルターを作製することに成功した。カーボン膜の内部には、直径約1ナノメートルの流路が無数に形成されており、有機溶媒を超高速で透過させることができる。オイルの1成分であるヘキサン(注2)の透過速度は、230L/h・m2・barを超えており、不純物のモデル物質として用いたアゾベンゼン(注3)(分子量:182.2)の阻止率は90%以上であった。この処理速度は、同等の性能の市販のフィルターと比較して、約3桁大きい。

 4.有機溶媒が配管中を流れる場合、その速度は溶媒の粘度に反比例して増大する。即ち、粘度が低い有機溶媒ほど配管中を速く流れる。今回の研究では、直径1ナノメートルという極小の流路においても、このような粘性透過が確認されることが分かった。分子スケールの流れが、粘性という巨視的な物性と関連していることは、驚くべき事実である。

 5.今回の成果は、JST CREST「ナノ界面技術の基盤構築」研究領域(研究総括:新海 征治)の研究課題「界面ナノ細孔での液体の巨視的物性の解明」(研究代表者:一ノ瀬 泉)において得られた。なお、本成果は、平成24年1月27日発行のScience誌(AAAS、アメリカ)に掲載されている。


<研究の背景>
 世界規模での水不足が深刻になるにつれて、水処理技術への期待が高まっている。日本のメーカが製造している水処理膜は、海水淡水化や廃水処理に幅広く利用されており、その性能はトップクラスであり、世界シェアも大きい。しかしながら、既存の膜にも欠点がある。例えば、膜を形成しているポリマー(高分子)は、酸やアルカリ、化学薬品の影響により、徐々に分解してしまう。また、多くの高分子膜は、高温に加熱すると軟化し、有機溶媒によっては溶解してしまう。高分子膜の内部に数ナノメートルの流路を形成する技術も、現状では十分に確立されていないのである。
 耐有機溶媒性のセラミックス膜では、直径1ナノメートル程度の細孔をもつ水処理膜が製造されているが、このような膜を薄く均質に製膜するには限界があり、流束が著しく小さい。また、現状の膜では、有機溶媒を高速で透過させることができない。一方、カーボン膜は、ガスや水蒸気の分離膜として古くから研究されているが、有機溶媒の高速透過が実現できていない。
 その実現には、力学的強度が大きな極薄のカーボン膜に、溶媒分子よりも大きな貫通孔を形成させる必要があるが、これが従来の製膜法では非常に困難であった。


<成果の内容>
 今回の研究では、高強度コーティングに用いられるダイヤモンド状カーボン(DLC,diamond−like carbon)の製造方法(プラズマCVD(注4)法)を応用することで、開孔径が大きなアルミナ基板の上に、厚さ35ナノメートルの高強度カーボン膜を自立膜として形成させた(図1、図2)。また、製膜過程での基板温度を制御することで、カーボン膜の内部に約1ナノメートルの複数の流路を形成させることに成功し、有機溶媒の高速透過を実現させた(図3)。

 高性能ろ過フィルターの製造方法は、以下の通りである。まず、アノード酸化により形成された多孔性アルミナ膜(注5)(開孔径:200ナノメートル)の上に、ナノストランド(注6)と呼ばれる極細の無機ファイバーを濾過し、アルミナ膜の表面を均一に覆う。これに、アセチレンなどのガスを原料として、プラズマ蒸着によりダイヤモンド状カーボン(DLC)膜を形成させ、酸で処理することで、犠牲層として利用したナノストランド層を除去する。このような方法により、ヤング率(注7)が170ギガパスカル(ダイヤモンドの約7分の1程度)の高強度カーボン膜が得られる。

 カーボン膜には、直径約1ナノメートルの多数の貫通孔が形成されており、減圧ろ過によりアゾベンゼン(分子量:182.2、平均分子サイズ:0.69ナノメートル)を94.4%、プロトポルフィリン(注8)(分子幅:1.47ナノメートル)を100%取り除くことができる。有機溶媒の透過速度は、ヘキサンで239L/h・m2・barとなる(図4)。また、ろ過フィルターの耐圧性は、20気圧まで確認されており、圧力に比例して透過速度が大きくなることが実証されている。

 高強度カーボン膜は、10ナノメートルまで薄膜化することができる。この場合、細孔サイズは3ナノメートル程度になるが、ヘキサンの透過速度は1800L/h・m2・barを超える。これらの値は、市販の有機溶媒用のろ過フィルターと比較して約3桁大きく、世界最高性能を達成している。



※以下、図などリリースの詳細は添付の関連資料を参照


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