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東大と理化学研究所、「マルチフェロイック薄膜」に生じる大きな電気分極の起源を解明

2012-01-30

「マルチフェロイック薄膜」に生じる大きな電気分極の起源を解明


<本研究成果のポイント>

・磁石の性質(強磁性)と誘電性を併せ持つマルチフェロイック性(※1)を示すマンガン酸化薄膜(マルチフェロイック薄膜)を作製
・マルチフェロイック薄膜が示す大きな電気分極の起源をX線回折によって解明。また、同薄膜の磁気構造を直接観測した世界に類のない画期的な成果
・今後、同薄膜作製の大きな指針となり、低消費電力で高集積のメモリーデバイスなどの開発に期待


【概 要】
 強磁性と誘電性を同時にもつ物質「マルチフェロイック物質(※1)」は、磁場で電気分極を制御したり電場で磁化を制御したりできることから、室温での磁化の電場制御など多くの応用が期待されている。
 東京大学理化学研究所のグループ(東京大学大学院工学系研究科・和達大樹(わだち ひろき)特任講師、理化学研究所物質機能創成研究領域交差相関物性科学研究グループ・中村優男(なかむら まさお)基幹研究所研究員、東京大学大学院工学系研究科・川崎雅司(かわさき まさし)教授、東京大学大学院工学系研究科・十倉好紀(とくら よしのり)教授)は昨年、マルチフェロイック性を示すマンガン酸化物薄膜(マルチフェロイック薄膜)作製に成功した(図1、図2)。
 今回、同薄膜が示す大きな電気分極の起源を調べるため、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所の岡本淳(おかもと じゅん)特任助教、山崎裕一(やまさき ゆういち)助教、中尾裕則(なかお ひろのり)准教授、村上洋一(むらかみ よういち)教授のグループと共同で、X線回折(※2)によって磁気構造と格子歪みを測定した。その結果、(1)スピンがらせん状に並ぶ「サイクロイダル(※3)」とスピンが180度逆向きに並ぶ「E型反強磁性(※4)」という2つの磁気構造が、共存した状態となっていること(図3)と、(2)サイクロイダル状態が小さな電気分極を生むことに加え、E型反強磁性が結晶構造の歪みから大きな電気分極を生じることが、本物質の電気分極の起源であることを明らかにした。
 この研究成果は、米国科学誌Physical Review Lettersの2012年1月27日号(オンライン版1月24日(現地時間))に掲載される。


【背 景】
 マルチフェロイック物質は、電圧で磁性を制御できるため、エレクトロニクスの低電力性や、高速性につながる可能性があるとして大きな関心を集めている。しかし、未だマルチフェロイック物質は多く発見されておらず、見つかっているものでも強磁性や誘電性は、有用な強磁性体や誘電体に比べて弱いことが多いので、新たな物質探索が盛んに行われている。
 東京大学理化学研究所のグループは、2011年に従来の薄膜をはるかに超える誘電分極をおこす新たなマルチフェロイック物質、マンガン酸化物薄膜(YMnO3)(マルチフェロイック薄膜)の作製に成功したが、なぜこのように大きな分極がおきるのかは大きな謎であり、このしくみを解明することは、有用なマルチフェロイック物質の材料設計の点からも鍵となっていた。


【研究内容と成果】
 作製された薄膜は、厚さ40ナノメートル(ナノは10億分の1)、原子約100個分であり、この薄膜内の磁気構造を精密に測定するのは通常困難である。そのため、東京大学理化学研究所の研究グループは、KEKの研究グループと共同で実験を行い、放射光科学研究施設フォトンファクトリー(※5)、スイスの放射光施設(Swiss Light Source)を利用し測定した。軟X線回折で磁気構造を解明するとともに、硬X線回折で格子歪みを検出することに成功した。
 今回の測定により、マンガンのもつスピンがサイクロイダルとE型反強磁性という2つの磁気構造が共存した状態となっていることが明らかになった。すなわち、サイクロイダル状態により40K(−233℃)から電気分極が生じるが、サイクロイダル磁気構造は結晶構造と整合しない周期を取り、小さな電気分極を生じること、また、35K(−238℃)からはサイクロイダル状態に加えてE型反強磁性が生じ、E型反強磁性磁気構造は結晶構造に整合した周期を取り、平行なスピン間の相互作用の歪みから大きな分極を生じることが明らかになった。


<論文名>
論文名:Origin of the large polarization in multiferroic YMnO3 thin films revealed by soft and hard x−ray diffraction(軟・硬X線回折によるマルチフェロイック性を示すYMnO3薄膜の大きな電気分極の起源の解明)
雑誌名:Physical Review Letters 2012年1月27日号(オンライン版1月24日)
著 者:H.Wadati,J.Okamoto,M.Garganourakis,V.Scagnoli,U.Staub,Y.Yamasaki,H.Nakao,Y.Murakami,M.Mochizuki,M.Nakamura,M.Kawasaki,and Y.Tokura


【本研究の意義、今後の展望】
 本成果は、マルチフェロイック性を示すマンガン酸化物薄膜の磁気構造を直接観測した世界に類のない画期的なもので、今後のマルチフェロイック薄膜の材料設計に大きな指針となることが期待される。



 *参考図、用語解説は添付の関連資料を参照


<関連サイト>
 放射光科学研究施設フォトンファクトリー
  http://pfwww.kek.jp/indexj.html

 構造物性研究センター(CMRC)
  http://cmrc.kek.jp/index.html

 東京大学大学院工学系研究科 和達研究室
  http://www.qpec.t.u-tokyo.ac.jp/wadati_lab/index.html

 理化学研究所 交差相関物性科学研究グループ
  http://www.riken.jp/cmrg/index.html

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