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基礎生物学研究所、捕食者と被食者の関係性を数理モデルとして定式化することに成功

2012-01-17

メダカは生物学的1/fゆらぎを利用してミジンコを捕らえる!
〜捕食者と被食者の関係性を数理モデルとして定式化することに成功〜



 捕食性動物は、素早く動き回る獲物を正確に捕らえることができます。狩りを行うとき、捕食者は生きている被食者とその周囲のオブジェクトとの区別を、リアルタイムで行う必要がありますが、このとき捕食者は持てる感覚器を総動員して生きている獲物を認識しています。特に視覚系は多くの場合決定的な役割を果たしています。視覚を通じて、大きさ、形状、色、そして動きを識別して周囲の無関係なオブジェクトと、狩るべき獲物とをリアルタイムで区別します。例えば水棲環境において動物プランクトンを捕食している小型魚類は、水中を漂う多くの粒子や破片と区別する必要があります。しかしながら、どのようなパラメータによって区別しているのかは、これまで謎に包まれていました。今回、基礎生物学研究所の渡辺英治准教授と松永渉研究員は、捕食者である小型魚類(メダカ)が被食者である動物プランクトン(ミジンコ)を捕らえる際のメダカの視覚系の働きに着目して研究を行い、メダカはミジンコの運動パターンから生き物特有の動きを瞬時に抽出し、これをハンティングに利用していることを明らかにしました。ミジンコの運動パターンの数理モデル化と最新のバーチャルリアリティ技術により、この生き物特有の動きは生物学的1/fゆらぎで特徴づけられることが分かりました。この成果は英科学総合論文誌 Scientific Reports(サイエンティフィック レポーツ)にて発表されます。より効果的な釣りの方法や漁法開発などに活用出来る可能性があります。

※参考画像は、添付の関連資料を参照


[研究の成果]
 これまで当該分野の研究が進展しえなかった最大の理由は、実験者が生きている被食者のパラメータを自在に制御することができなかったことにあります。例えば、生きているミジンコの大きさ、形状、色、そして動きを研究者が自在に変化させ制御することは不可能です。渡辺准教授の研究グループは、これを数理モデルの導入によって解決しました。被食者であるミジンコの動画データを数理モデル化し、これをコンピュータプログラミングによってパソコンのディスプレイ上に再現し、メダカの捕食行動の解析を行うことに成功したのです(図1)。
 松永らは、ミジンコが動き回る行動の様子をビデオ撮影し、そのミジンコの軌跡をフーリエ変換によって周波数解析をした結果、ミジンコが特別な波形パターンを示すことを発見しました。それはピンクノイズ(別名1/fノイズ、あるいは1/fゆらぎ:(注1))と呼ばれるパワースペクトル(注2)を持ち、これは心臓の鼓動リズムや神経細胞の活動リズムにも見いだされていた波形パターンでした(図2)。
 まずミジンコの生データから得た座標データをそのまま使用して、ディスプレイ上にバーチャルプランクトンを再現したところ、メダカは強い捕食行動を示しました(図3)。次に純粋に数学的な手法によってピンクノイズを計算機に発生させ、バーチャルプランクトンとしてメダカに提示したところ、生データモデルと同等の強い捕食行動を示しました。興味深いことに、似たようなノイズ成分を持つホワイトノイズ(注1)やブルーノイズ(注1)には、強い反応はしませんでした。さらには静止しているあるいは等速運動をしているバーチャルプランクトンにも反応しませんでした。


[これからの展開]
 メダカという捕食者とミジンコという被食者の間にある関係性が数理モデルとして定式化できたことは非常に大きな意味を持ちます。なぜならピンクノイズ的な運動パターンは広く動物界に見いだされているからです。それは淡水海水の水棲系はもちろんのこと、陸上の生態系の理解にも意味を持ちます。捕食者が効率的なハンティングを行うために生物が発生させるピンクノイズを利用しているという仮説は、生物の相互作用を考える上では大きな拡がりが期待できるとても興味深い仮説なのです。例えばアンコウ類などは疑似餌を使って被食者を捕らえますが、その疑似餌の動きはまさにピンクノイズ的であり、運動パターン発生の進化研究にも活用できる可能性を秘めています。また理論を釣りのルアーに応用すれば、新たなスポーツフィッシングの世界が拡がるかもしれません。


※図1〜3・用語説明は、添付の関連資料「参考資料」を参照


[発表雑誌]
 英科学総合論文誌 Scientific Reports(サイエンティフィック レポーツ)
 日本時間2012年1月11日午後23時にオンライン掲載予定(報道解禁設定あり)
 論文タイトル:
  "Visual motion with pink noise induces predation behaviour"
 著者:Wataru Matsunaga、Eiji Watanabe


[研究グループ]
 本研究は基礎生物学研究所の渡辺英治准教授、松永渉研究員(現・奈良県立医大助教)により行われました。


[研究サポート]
 本研究に使用されたミジンコは、基礎生物学研究所の井口研究室から供与を受けました。また本研究は、自然科学研究機構「若手研究者による分野間連携研究プロジェクト」のサポートを受けて行われました。

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