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京大など、ホップの苦味成分を作る遺伝子を発見

2012-01-11

ホップの苦味成分を作る遺伝子を発見


 矢崎一史 生存圏研究所教授らの研究グループは、ビール醸造に欠かせない「ホップ」の苦味成分を作る遺伝子を世界に先駆けて見出すことに成功し、英国の生化学専門誌にその成果を発表しました。


研究の概要
 ホップはビールを醸造するためには必須の材料である。ビールにおけるホップの役割は、以下の通りである。

・ビール特有の苦味を与える
・ビールに香りを与える
・殺菌作用(醸造中に雑菌が入りにくい)
・泡持ちをよくする

 このうち、苦味はビールに特有のもので、世界中で消費されるビールに入れるため、大々的に商業栽培されている。ちなみに、アルコール・フリーのビールが最近我が国では商業的な成功を収めているが、これにもホップが使われている。すなわち「ホップがないとビール味にはならない」というほど、ホップはビール醸造において味を決定する主要因となっている。

 このビールの苦味は、「苦味酸」と呼ばれる成分によることが既に60年以上も前から分かっている。「苦味酸」は大きくα酸、β酸に分けられるが、特にα酸はフムロンとも呼ばれ、ビールの中に溶け込んで苦味を与え、上記の抗菌性や泡持ちにも役立っている。この成分(フムロン)は、フロログルシノールという母核に「プレニル」というヒゲが結合した化学構造を持つが、このヒゲがどのような酵素によって母核につけられるか、数十年にも及ぶ探索にも関わらず、これまで未解明であった。

 今回我々は、ホップの遺伝子の網羅的探索と生化学的研究を組み合わせることで、世界に先駆けてその酵素遺伝子HlPT-1を発見した。


発見の詳細
 ビールの苦味の本体であるホップ成分を作る遺伝子を見出す研究は、キリンホールディングス株式会社と共同で約5年前に着手した。ホップの苦味成分(慣用名:苦味酸)はポリフェノールの仲間であるが、特殊な化学構造をしており、α酸とβ酸が知られる。それぞれ、α酸にはフムロン、β酸にはルプロンという英名が与えられているが、いずれも、フロログルシノールという単純なポリフェノールにプレニル基という「ヒゲ」が二つないし三つ結合した化学構造を持つ。フロログルシノール自体にはこのホップ特有の苦味はないため、このプレニル基の「ヒゲ」が味にとって重要な役割を果たしていると考えられている。

 ビール醸造に使われるホップは、アサ科のホップという蔓植物の雌花である。上記の苦味成分はホップ類に特有の成分であるが、雌花の中にできる「ルプリン」と呼ばれる黄色い粉上の組織の中に特異的に貯まる。この成分がホップの中でどのように作られるかは、世界中のホップ研究者の興味の対象であり、多くの生化学者、植物学者がその遺伝子の同定を試みたが、数十年の永きに渡り、その酵素遺伝子は未解明のままであった。

 我々は、キリンホールディングスとの共同研究で、キリン2号という品種から網羅的な遺伝子解析を行い、我々が独自に蓄積した植物酵素の蛋白質情報とコンピュータを使って候補遺伝子HlPT-1を絞り込んだ。その後、HlPT-1を昆虫の細胞を使って蛋白質にし、その酵素活性を証明した。結果として、フロログルシノール類を基質として、プレニルのヒゲをつける酵素活性(プレニル化活性)が認められた。また、この酵素蛋白質が数種類あるフムロンやルプロンの類似化合物を基質とし、最初のプレニル基をつける反応を司る「鍵」酵素であることが判明した。また、興味深いことに、ホップの中のプレニル化フラボノイドのキサントフモールという抗がん成分があるが、それを作る酵素反応も、このHlPT-1が行うことが分かった。植物の同類酵素で、このような広い基質特異性を持った酵素は非常に珍しい。この基質特異性の実験過程において同定用の標品の化学合成で、徳島大学ソシオテクノサイエンス研究部の宇都先生らにご協力いただいた。


展望と波及効果
 ホップはビール醸造に使われるために世界には80品種があり、大規模に商業栽培されている。特に、ドイツのハラタウ、チェコなどがヨーロッパの産地として有名である。

・ホップの苦味成分は抗炎症作用や、血管新生抑制作用、細胞増殖抑制作用(いずれも癌組織の生長を抑える)が知られ、ヒトの健康維持に役立つ植物成分として注目されている。またHlPT-1はキサントフモールの生産も担っていることから、こうした植物由来の抗腫瘍性成分の効率的生産に役立つことが期待される。
・逆の用途として、こうした苦味成分やキサントフモールのような活性成分を含まないホップを生産させることにも利用でき、女性ホルモン様作用を有する8-プレニルナリンゲニンが多く含まれる新しいホップ品種の作出にも利用できると期待される。
・ホップは雄雌が別の植物であり、品種改良には交配が必要となるが、その際、雄株がこうしたプレニルか成分をたくさん含む優良遺伝子を持っているかどうかは、掛け合わせた子孫を作らないと分からない(乳牛の父親が良いか悪いかが見た目で分からないのと同じ)。したがって、ホップの優良な雄株あるいは交配株の品質を評価する遺伝子マーカとしての利用が期待され、新しい味のホップの選抜、ひいてはビールの新製品開発にもつながる成果である。

・本研究は、キリンホールディングス株式会社、徳島大学との共同研究である。
・研究費は文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(B)、およびキリンホールディングス株式会社からの共同研究経費による。
・主な実験は矢崎研究室の大学院生、鶴丸優介氏による。

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