イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

自然科学研究機構など、金属錯体を自在に並べる手法を開発

2011-12-22

テープ状構造とチューブ状構造、どっちがお好き?

―金属錯体を自在に並べる新規手法を開発―


<概要>
 自然科学研究機構分子科学研究所の正岡重行准教授、崇城大学工学部の黒岩敬太助教らの研究グループは、生体膜の構築原理に着想を得た、分子間にはたらく弱い相互作用を利用して、金属錯体を自在に並べる手法の開発に成功しました。
 有機EL素子や、化学工業用の触媒として広く使われている金属触媒は、規則正しく積み上げること(自己集積)により、次世代の分子デバイスやナノマシンの創製につながるものとして期待されています。自己集積させる方法として、従来は、共有結合や配位結合のような強い相互作用を利用する方法が開発されていました。しかし、より高度な分子組織システムを形成するためには、強い相互作用だけでなく、弱い相互作用を制御することが必要となります。
 研究グループは、生体膜などの自然界のナノ構造体で用いられている水と油がはじき合う弱い相互作用に着想を得て、本来相互作用を示さないルテニウム二核錯体に、対イオンとして水にも油にもなじむ性質をもつ脂質陰イオンを導入しました。その結果、水になじみやすいルテニウム二核錯体を有機溶媒の中で自己集積させることに世界で初めて成功し、2種のルテニウム錯体が脂質陰イオンによって規則的に配列させられた超分子ナノ構造体が構築できました。このナノ構造体は、ごく簡単な操作により、溶液中でテープ状構造とチューブ状構造とを可逆的に変化することができ、また、分子の規則的な配列によって見かけ上色が薄くなる「淡色効果」を、本来相互作用しない金属錯体において初めて発現させることができました。今回の成果は、高機能の金属錯体を用いて、自発的に組織化したナノ構造体を構築することを可能にしたものです。この手法をさらに発展させることで、ナノサイズの次世代半導体や分子機械を開発するための新しい設計指針を提供できることが期待されます。
 本成果は、JSTの戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)の「光エネルギーと物質変換」研究領域における課題の一環として行われ、定評あるドイツ化学会誌の英語版『Angewandte Chemie International Edition』のオンライン版で12月1日に公開されました。


1.研究の背景
 金属イオンと有機配位子から構成される金属錯体は、有機EL 素子や化学工業用の触媒など我々の身の回りで働いている非常に有用な化合物群です。この金属錯体を規則正しく積み上げてナノ構造体を形成させることで、次世代の分子デバイス(装置)の実現や細胞内小器官のようなナノマシンの創製へとつながることが期待できます(図1)。これまでに、共有結合や配位結合など比較的強固な相互作用によって金属錯体を自己集積(1)させ、ナノワイヤやナノシートなどの構造体を形成させる研究が多く行われてきました。しかしながら、これからの高度な分子組織システムを形成する上では、上記のような強い相互作用のみならず、集合体としての弱い相互作用(2)を制御することが重要になると考えられますが、これまでに弱い相互作用によって金属錯体を集積化させる研究は全くありませんでした。

 ◇図1.自己集積の概念図
  ※添付の関連資料を参照


2.研究の成果
 研究グループは、生体膜などの自然界のナノ構造体で用いられている水と油がはじき合う弱い相互作用を利用して金属錯体を積み上げることを考えました。具体的には、本来相互作用を示さないルテニウム二核錯体に、対イオンとして両親媒性(3)の脂質陰イオンを導入することで、水になじみやすいルテニウム二核錯体を有機溶媒の中で自己集積させることを試みました。その結果、この錯体−脂質複合体を有機溶媒であるジクロロメタンに溶かすことで、図2のように2種のルテニウム錯体が脂質陰イオンによって規則的に配列させられた超分子ナノ構造体を構築することに初めて成功しました。

 ◇図2.ルテニウム二核錯体と脂質陰イオンとの複合化による超分子ナノ構造体の形成
  Ru;ルテニウム。二核錯体とは、核となる金属が2個存在する錯体。
  (補足:図の左側、上はRu(II)−Ru(III)、下はRu(III)−Ru(III)である)
   ※添付の関連資料を参照

 さらに、このナノ構造体は以下のような特殊な性質をもつことが明らかになりました(図3)。
 (1)静置することで、溶液中でテープ状構造からチューブ状構造へと成長する
 (2)外部からの刺激(手による軽い振とうと静置)によって、テープ状構造とチューブ状構造とを可逆的に変化する
 (3)分子の規則的な配列によって見かけ上色が薄くなる「淡色効果」を、本来相互作用しない金属錯体において初めて発現

 ◇図3.テープ構造とチューブ構造との外部刺激に応答した可逆的な構造変化
  μm:100万分の1 メートル。
   ※添付の関連資料を参照

 このように、本研究では両親媒性の脂質を用いることで弱い相互作用によって金属錯体の配列制御に成功し、それによって全く新しい性質をもつナノ構造体の構築を達成しました。


3.この研究の社会的意義
 本研究では、生体膜の構築原理を利用することで、本来相互作用しない金属錯体の全く新しい配列制御手法を開拓することに成功しました。これにより、高機能の金属錯体が自発的に組織化したナノ構造体の構築が可能となりました。さらに、この手法をさらに発展させることで、ナノサイズの次世代半導体や分子機械を開発するための新しい設計指針を提供できることが期待されます。


4.用語解説
 (1)自己集積:比較的単純な分子が種々の相互作用によって規則的に組み上がり、自然と秩序だった構造ができること。最近では、トップダウン型の微細加工技術に対し、分子を組み上げることで機能性デバイスを構築するボトムアップ型のナノテクノロジーの基盤技術として注目が集まっている。

 (2)弱い相互作用:イオン相互作用、水素結合、ファンデルワールス力、疎水性相互作用など。

 (3)両親媒性:水と油の両方になじむ性質。例えば、今回の脂質陰イオンは、水やイオン性金属錯体になじみやすい部分と、油などの有機溶媒になじみやすい部分の両方をもっている。

 ※参考画像は添付の関連資料を参照


5.論文情報
 掲載誌:Angewandte Chemie International Edition(ドイツ化学会誌の英語版;
      アンゲヴァンテ・ケミー・インターナショナル・エディション)
 論文タイトル:Self−assembly of Tubular Microstructures from Mixed−valence Metal Complexes and their Reversible Transformation via External Stimuli
          (混合原子価金属錯体のマイクロチューブ型自己集積と外部刺激による可逆変化)
 著者:Keita Kuroiwa,* Masaki Yoshida, Shigeyuki Masaoka,* Kenji Kaneko, Ken Sakai, and Nobuo Kimizuka
 掲載日:2011年12月1日付オンライン版にて公開


6.研究グループ
 本研究は、自然科学研究機構分子科学研究所・正岡グループ(正岡重行准教授)、崇城大学工学部・黒岩敬太助教、九州大学大学院学生・吉田将己氏らの研究により行われました。


7.研究サポート
 本研究は、JST戦略的創造研究推進事業CREST(研究領域「ナノ界面技術の基盤構築」、研究総括:新海征治 崇城大学 工学部 教授)における、研究課題「自己組織化に基づくナノインターフェースの統合構築技術」(研究代表者:君塚信夫 九州大学 大学院工学研究院 教授)、およびJST戦略的創造研究推進事業 さきがけ(研究領域「光エネルギーと物質変換」、研究総括:井上晴夫 首都大学東京 戦略研究センター 教授)における、研究課題「水の可視光完全分解を可能にする高活性酸素発生触媒の創製」(研究代表者:正岡重行准教授)の一環として行われました。また、本研究は九州大学グローバルCOEプログラム「未来分子システム科学」の支援を受けて行われました。

Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版