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東北大、Varp分子の新機能「樹状突起形成の促進作用」を発見

2011-12-20

Varp分子の新たな機能「樹状突起形成の促進作用」を発見
― メラニン色素のケラチノサイトへの転移に関与 ―


【ポイント】
 ・メラニン色素の肌への沈着にはメラノサイトの「樹状突起」からケラチノサイトへのメラニン色素の受け渡しが重要
 ・メラニン合成酵素の輸送に必須の因子「Varp」が樹状突起の形成促進にも関与
 ・Varpを欠損すると細胞内メラニン色素量が減少し、樹状突起の形成が阻害


【概要】
 国立大学法人東北大学は、メラニン合成酵素の輸送に必須の因子として知られるVarp分子に「メラノサイトの樹状突起形成を促進」する新たな作用があることを明らかにしました。これは、東北大学大学院生命科学研究科の大林典彦助教、福田光則教授らによる研究成果です。
 わたしたちの肌や髪の色の源であるメラニン色素は、「メラノサイト」と呼ばれる特殊な細胞でメラニン合成酵素によって合成され、「メラノソーム」と呼ばれる細胞内の袋(小胞)に貯蔵されています。メラニン色素を貯蔵したメラノソームは細胞内を移動し、メラノサイトの「樹状突起」(*1)から隣接する肌や髪の毛を作る細胞(ケラチノサイトや毛母細胞)に受け渡されて、肌や髪が黒くなります。メラノサイトからケラチノサイトにメラノソームを効率よく受け渡す(転移)ためには、樹状突起の形成が重要と考えられてきましたが、これまでその仕組みは十分に解明されていませんでした。
 今回、研究グループはマウスの培養メラノサイトを用いて、この樹状突起形成過程に「Varp(バープ)」(*2)と呼ばれるRab(ラブ)21活性化因子(*3)が関与することを突き止めました。これまでVarpはメラノサイトの細胞内でRab38と共にメラニン合成酵素の輸送に関与することが知られていましたが(*4)、VarpのRab21活性化の機能を特異的に欠損させたメラノサイトでは、樹状突起の形成が顕著に阻害されることを見いだしました。すなわち、VarpはRab21を活性化することにより、樹状突起の形成に必要な膜やタンパク質の突起端への供給に関与することがはじめて明らかになりました。
 Varpは肌や髪の毛の暗色化に重要な二つのプロセス(メラニン合成酵素の輸送と樹状突起の形成)に関与することから、Varpの機能を阻害あるいは安定化するような薬剤のスクリーニングが進めば、今後、肌の美白の維持や白髪予防につながる可能性が期待できます。
 本研究成果は、米国の科学雑誌『Molecular Biology of the Cell』電子版に間もなく掲載されます。


【背景】
 わたしたちの肌や髪の毛に含まれるメラニン色素は、有害な紫外線から体を守るために重要な役割を果たしていますが、一方でしみやそばかすの原因ともなっています。メラニン色素は、皮膚の基底層と呼ばれる場所に存在する特殊な細胞・メラノサイトでのみ作られ、メラノソームと呼ばれる袋(小胞の一種)に貯蔵されています。成熟したメラノソームはメラノサイトの細胞内を輸送され、樹状突起(*1)の先端から隣接する皮膚を作る細胞・ケラチノサイトに受け渡されて(転移)、肌の暗色化が起こります(図1)。つまり、メラニン色素をケラチノサイトに受け渡し、正しく沈着させるためには、メラノサイトの樹状突起形成のプロセスが重要と考えられます。しかし、これまでメラノサイトの樹状突起形成の仕組みは十分に解明されていませんでした。


【研究成果】
 本研究では、培養メラノサイト(マウスmelan−a細胞)の樹状突起形成に関与する候補分子として、以前わたしたちがメラニン合成酵素の輸送に関わる分子として同定したVarp(*2)に着目しました。まず、メラノサイトに内在性のVarp分子の発現を細胞レベルで特異的にノックダウンすることにより、樹状突起の形成に対する影響を検討しました。次に、Varp分子内に存在する二種類のRabシグナリングドメイン(*3)[Rab21活性化ドメイン(VPS9ドメイン)及びメラニン合成酵素の輸送に関与するRab38エフェクタードメイン(ANKR1ドメイン)(*4)]の樹状突起形成への関与を明らかにするため、各ドメインの機能のみを欠損させた変異体(VPS9変異体及びANKR1変異体)を作成し、それらの役割をノックダウン−レスキューアプローチにより評価しました(*5)。その結果、以下のことを明らかにすることができました(図2及び図3)。

 1.Varp分子を欠損するメラノサイトでは、樹状突起の形成が顕著に阻害されることから(図2A右)、Varpはメラノサイトの樹状突起形成に必須の因子と考えられます。
 2.Varp分子を欠損(ノックダウン)するメラノサイトに野生型のVarp分子を再び戻してやると、樹状突起の形成が回復(レスキュー)しましたが(図3中央左)、VPS9ドメインのRab21活性化作用を欠損させたVPS9変異体では樹状突起の形成は回復しませんでした(図3中央右)。
 3.一方、Rab38の結合能を欠損するANKR1変異体では、メラニン合成酵素がメラノソーム上から消失しているにも関わらず、樹状突起の形成が促進されました(図3右)。

 以上の結果から、Varpは分子内に存在する二つのRabシグナリングドメインの機能を使い分けることにより、「メラニン合成酵素の輸送」と「樹状突起の形成」という二つの異なる輸送プロセスを制御する多機能分子であることが明らかになりました(図4)。Varpのように分子内に複数のRabシグナリングドメインを持つ分子は他にも報告されていますが、これまでに報告された分子はいずれも異なるRabシグナリングドメインが協調して一つの輸送経路を制御するものであり、今回のVarpによる二つの異なる輸送経路の制御に関する研究成果は、Rabによる小胞輸送制御を理解する上でも重要な発見と考えられます。


【今後の展開】
 紫外線を浴びるとわたしたちの体内ではメラニン合成酵素が活性化され、合成されたメラニン色素が皮膚に沈着し日焼け、しみ、そばかすが発生します。肌の美白維持に関しては、メラニン色素(メラノソーム)の合成、輸送、転移(あるいは樹状突起の形成)のいずれかのプロセスをターゲットにした薬の開発が行われていますが、これまで複数のプロセスを対象にした研究は行われていませんでした。しかし今回の研究により、Varpを対象とすれば、メラニン合成酵素の輸送レベルとケラチノサイトへの転移のレベルを同時に制御することが可能と考えられます。今後、Varp分子の機能を阻害あるいは安定化するような薬の開発が進むことが期待されます。

 ※本研究成果は、文部科学省新学術領域研究細胞内ロジスティクス「リソソーム関連オルガネラの細胞内動態とその破綻による疾患発症の分子基盤」(研究代表者:福田光則 東北大学大学院生命科学研究科教授)、同省グローバルCOEプログラム(脳神経科学を社会へ還流する教育研究拠点、代表者:大隅典子 東北大学大学院医学系研究科教授)、及び加藤記念バイオサイエンス研究振興財団・研究助成金「新規Rab32/38結合蛋白質によるメラノソーム成熟機構の解析」(研究代表者:福田光則)によるものです。



※以下、リリースの詳細は添付の関連資料を参照


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